第六十八章 その日の晩餐 3.ユーリ式野菜料理案
「ぼくたちのマヨヒガ」、本日から三日間、21時頃に更新の予定です。宜しければこちらもご覧下さい。
「アドンさん、肉とかの串焼きにタマネギとかを挟んで、一緒に焼く事ってありますか?」
ユーリがイメージしているのはバーベキューなのだが、
「……いや、寡聞にして知らないね」
アドンも周りを見廻すが、全員が首を振って否定の意を返す。目新しい料理法ではあるようだが、
「野菜料理とは言えないかもですね」
「うむ。それに、食卓で出す料理でもないような気がするね」
「あぁ……確かにそうでした」
少なくとも、セレブ相手の饗応には向かないだろう。
「そうすると……あと思い出せるのは、キャベツの丸焼きぐらいなんですけど……」
「「「「「キャベツの丸焼きぃ!?」」」」」
いきなり突拍子も無いものを聞かされて、思わず驚きの声を上げる一同。そも言うに事欠いて、〝キャベツの丸焼き〟とは一体何だ?
「あ~……え~と……丸焼きっていっても、キャベツをそのまま焼くんじゃなくって……」
元ネタは、前世で読んだ料理漫画である。
うろ憶えだが、確か八つ割りぐらいにしたキャベツをソーセージやスープの素などと一緒に蒸し煮にして、蒸し上がったらグラタン皿に入れて、ミートソースと生クリームなどをかけてオーブンで焼く……といったレシピだったような気がする。
内容の面白さも然る事乍ら、色々と面白いレシピが載っていて、病室内でも人気の作品だった。
(各人の治療計画に即したメニューを出しているのに、余計な食欲を掻き立てるな――って、看護師さんに酷く叱られたっけ……)
今となっては好い想い出である。……いや、本当に有用な情報である。
〝僕も実際に作った事があるわけじゃないですけど〟――と断った上で、大まかなレシピを教えたところ、脇に控えていたマンドが面白いように食い付いたのである。何の変哲も無いキャベツを豪勢な丸焼きに仕立てる――という発想がツボに入ったらしい。
「確かに、野菜が主役の一品になるな。これだけじゃ吝嗇臭いって思われるかもしれねぇが、他に何か添えてやりゃあ問題無ぇだろう」
「あ……やっぱり貧乏臭く見られちゃうんですか?」
「あぁ、まぁ、肉料理が無ぇとどうしてもな」
マンドの台詞にアドンや家人も頷いているところを見ると、これがこの国の平均的な感覚なのだろう。
それならば――とユーリは考える。貧乏臭さを感じさせない野菜料理とはどういうものか。……先程のアドンたちの反応を思い返せば、答は直ぐに浮かんだ。
「アドンさん、マヨネーズを始めとする色々なドレッシングを並べて、サラダにはお好きな調味料をお好みで――とやったら、お客さんは驚いてくれるでしょうか?」
ユーリとしては単に前世のサラダバーのイメージだったのだが……アドンたちに与えた衝撃は大きかったようだ。
マヨネーズだけでも充分なのに、それ以外にもソース――ユーリは〝ドレッシング〟と言っていたが――を並べて、野菜サラダに望みのままにかけさせる?
「……それは……大変に驚くだろうね……」
掴みとしては万全過ぎるだろう。
【参考文献】
清水康代「キッチンの達人」講談社.




