第六十八章 その日の晩餐 2.ドレッシングとサラダ
――ユーリにとっては青天の霹靂である。
前世ではマヨネーズは言うに及ばず、フレンチ・イタリアン・ごま・和風など様々なドレッシングが店頭に並んでいたし、他にも醤油やぽん酢、天汁・麺汁、オーロラソースに辛子マヨネーズ、タルタルソースなど……大袈裟に言えば、サラダのお供は枚挙に暇が無いほどであった。
それらが全て無いというのか?
(あ~……でも、解らなくもないか。こっちではマヨネーズも醤油も知られていないみたいだし……)
――などと心中で納得していたユーリであったが、
「……そう言うところを見ると、ユーリ君は色々と知っていそうだね?」
手練れの商人であるアドンは、見逃してくれなかったようだ。
「えぇまぁ、少しは知っていますけど……ほとんどがマヨネーズを材料にしたものですよ? 当然、その性質もマヨネーズと大差ありませんし」
食べ過ぎたら太るのは変わらないぞ――と、暗に釘を刺すユーリ。
マヨネーズベースでないドレッシングも、基本の材料として油を用いているため、摂り過ぎたら太るのは変わらない。ただ、液状のドレッシングはマヨネーズほど大量に付けないので、そこは長所と言えば長所だろう。
醤油ベースのドレッシングなら、脂肪分も少なくヘルシーなのだが、
(……別に秘密にするわけじゃないけど、まだ未完成だしなぁ……)
前世日本人としての矜恃にかけて、未完成の醤油など渡せるものか。
「……とりあえず幾つかお教えしますから、後で試してみてくださいね」
「助かるよ」
アドンは素早く算段を巡らせる。
ユーリが教えてくれるという新たなソースのレシピは、マヨネーズともども間違い無く自分の武器になる。マヨネーズがベースというのなら、少なくとも当分はレシピの秘匿も難しくはあるまい。
しかし――それらは飽くまでサラダ……生野菜向けのレシピのようだ。となるとその前提として、生で食べても美味い野菜というものが必要になる。ユーリの野菜ありきというのでは、料理として出す側も都合が悪い。他所の野菜を購入して、味わいその他を確かめておくべきだろう。
翻って……妻と娘が執心しているのは、あくまで野菜を食べる事。ならば何も、生野菜のサラダに拘る必要はあるまい。マヨネーズを使わない野菜料理だって、あって然るべきではないか。
「ユーリ君、ものは相談だが、他に健康的な野菜料理というものを知らないかね?」
訊かれたユーリは考える。野菜料理は幾つか知っているが、それはこの国にあるのかないのか。先にそれが判らないでは、ユーリとしても助言のしようが無い。
「逆に伺いますが、この国では野菜をどうやって食べているんですか? サラダは別として」
「あ~……大抵はスープなどの具にするか、煮込むくらいだね。ものによっては茹でたり蒸したり……あぁ、バターで炒める事もあるな」
ふむ――とユーリは考える。それなら、自分の知っている野菜料理と大差無いようだ。調味料として味噌や醤油を使うというのが、違いと言えば違いだろう。ただ、味噌も醤油もまだ人前に出せる段階ではない。ゆえに、和風の味付けはできないものとすると……
(直ぐに思い付くのは野菜の天ぷらだけど……これは駄目だね。天汁無しの天ぷらなんて、迂闊に広めるわけにはいかないからね)
(フライドポテトも……まだパパス芋の栽培に手を着けていないからなぁ……。お隣のフルストから輸入する手はあるけど、話が大きくなり過ぎるだろうし……何より、どうも女性陣は美容・痩身・健康狙いみたいだからなぁ……。フライドポテトとかポテトチップとか、もろにベクトルが逆向きだし)
(あとは……料理じゃないけど、南瓜のプリンとか人参のグラッセとかがあったっけ。けど……これもダイエット向きではないしなぁ……。そもそも南瓜……じゃなくてボカは、まだまだ前世の南瓜ほど甘くはないし、お菓子の材料としても今一つだよね)
――などと次々に駄目出しされて残ったのは、




