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第六十七章 春の大市~作物探しの三日目~ 4.ただ買い込んで日が暮れて

 趣味に走って陸稲(りくとう)を買い漁った罪悪感――註.ユーリ視点――に囚われていたユーリであったが、失地挽回の機会は意外に早くやって来た。

 こっそりと店頭の品々を【鑑定】して廻っていたところ、それを発見したのである。



(……え……? ブロッコリーなの? これ)



 【鑑定】先生のご託宣(たくせん)によれば、キャベツ――こっちの世界風に言えばキャピット――として一括して売られているものの中に、花穂が発達肥大したものが混じっているらしい。この世界では――少なくともこの国では――キャピット(キャベツ)やケールの()(らい)を食べる習慣が無く、作物として利用も選抜もされていないらしい。普通に葉物野菜として売られていた。

 幸い、現物の他に種子も売っていたので、【鑑定】先生に確認した上で、ユーリはそれらも購入していく。



「ふむ? キャピット(キャベツ)ならうちの村でも育てておるが?」

「ええ、以前に分けて戴きました。けど、これはどうも少し系統が違うみたいなんで」

「ほぉ……まぁ、ユーリ君が試してみて、ものになりそうじゃったら教えてくれるかの?」

「勿論です。領主様との約束もありますし」



 ――と、了承の返事を返したものの、ユーリは内心で少し困っていた。


 前世の記憶に()れば、確かブロッコリーというのは足が速い野菜だった。何でも、野菜の中では呼吸量が抜きん出て高いとかで、普通に室内に置いておくと旺盛に呼吸して黄色くなり、味も落ちるのだとか。前世の母親がぼやいていた記憶がある。【鑑定】先生のご教示に()れば、鮮度を保持するためにはシャーベット状の雪氷に漬けるとよいと言うのであるが……



(……そんな贅沢な事、やってられないしなぁ……)



 ユーリが自分一人で食べるのなら、何の問題も無いのだが。シチューなどの具にする他に、油炒めや、茹でたものにマヨネーズという定番の食べ方もできる。ただ、エンド村ではマヨネーズは難しいだろうし、油で炒める調理法もどれだけ普及しているか。

 ――と考えていたところで、



(……ん? マヨネーズ?)



 マヨネーズのレシピはマンドに伝授したばかりである。調味料としては色々な料理に合うので使い易いし、味も受け容れられるであろうが……



(……新奇なマヨネーズに、これも新奇なブロッコリーを合わせる……これって上手く使えば、アドンさんの利益になるんじゃないのかな?)



 ブロッコリーは新鮮さが命だが、それはマジックバッグを使えばどうにかなる。問題は、そうまでして運ぶメリットがあるかだが……これは実際に栽培したものを、アドンに試食して判断してもらうしか無いだろう。……いや、その前に、オーデル老人に試食してもらって意見を訊くのが先か。

 それに領主との約束で、新奇な作物はダーレン男爵にまず卸すという事になっている。一方で、ブロッコリーを輝かせるであろうマヨネーズのレシピは、恐らくアドンが独占する筈だ。流通には両者の意見調整が必須となろう。



(……でも、ま、そこまで僕が心配する必要は無いよね)



 とりあえずはブロッコリーの処遇に目処(めど)が立った事で、ユーリは少し気が楽になった。

 そのまま店頭を見て廻り、時折オーデル老人の助言を受けて、セパ(タマネギ)ルブラ(ルバーブ)や芋類などを購入していく。特にルブラ(ルバーブ)など、前世でも身近ではなかっただけに、オーデル老人が教えてくれなかったら気づきもしなかっただろう。



(……ルバーブっていったら、これでジャムが作れるそうだけど……帰ったら試してみようかな)



 そんな事を考えていたユーリが、次に目を付けた――厳密には、【鑑定】先生に教えてもらった――のは、豌豆(えんどう)であった。

 豌豆(えんどう)には(こう)(きょう)(しゅ)(なん)(きょう)(しゅ)の二つの系統があり、前者は完熟して乾燥した豆を利用する。一方後者は、未熟なものを(さや)ごと、いわゆるサヤエンドウとして食べたり、成長した豆を乾燥させずにそのままグリーンピースとして利用する。

 ユーリが目を付けた豌豆(えんどう)は、後者の(なん)(きょう)(しゅ)の系統であった。こちらの世界でも、乾燥前の生豆をそのまま食べる習慣は――大豆(ソヤまめ)の枝豆と同じように――知られてはいるが、さすがに未熟なものを(さや)ごと食べるという習慣は、少なくともこの国には無いようであった。



「ほぉ、ノラ豆かね。悪い作物ではないんじゃが……同じ畑では続けて栽培できんのがのぉ……」



 このノラ豆は地球世界の豌豆(えんどう)に相当するものらしく、連作に弱いという欠点も共通しているようだ。一度栽培した土地では、数年間は栽培が困難なのだという。そのせいで、作物としては敬遠されがちらしい。恐らくは酸性土壌に弱いという欠点も共通しているのではないか。



「まぁ、ユーリ君のところなら、問題は無いか」

「はい、試してみます」



 幸か不幸かユーリの村では、畑は余りまくっている。植え付けの場所を毎年変えるくらいは(ぞう)()も無い。カルシウムの補給も、ユーリお得意の魔獣の骨粉があれば何とかなるだろう。……アドンは悲鳴を上げるかもしれないが。



(結構色んな収獲があったな。村へ帰ったら早速試さないと……)



 この調子で自給率を高めていって、いずれは完全自給の引き籠もりを目指す!


 ――などと、アドンやエムスが聞いたら、全身全霊傾けて阻止に走るような決意を胸に抱くユーリなのであった。


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