第六十三章 地球風料理指南 2.マヨネーズ
マンドの希望によってマヨネーズの製法を教える事になったのだが、実はマヨネーズの作製に当たっては、生卵以外にも重要な問題が存在していた。――攪拌である。
前世の母親が一時手作りマヨネーズに嵌っていたので、作り方は見て憶えている。と言うか、そもそもそれほど難しいものでもない。
基本は卵黄――アメリカでは全卵が主流。日本でも某メーカーは全卵型――に酢・水・塩・胡椒、好みでマスタードや蜂蜜・レモンジュースなどを加えてよく混ぜる。その次に食用油を少しずつ加えながら攪拌するだけだ。ただし……この攪拌の工程が――ハンドミキサーを使わないと――結構な重労働なのである。
昨年ローレンセンを訪れた時に卵を手に入れ、村へ戻ってマヨネーズ作りに取り組んだのだが……ユーリのステータスを以てしても、慣れないうちはかなり面倒な作業であった。況や一般人においてをや……想像するに難くない。実際に……
「なるほど……こいつぁ結構な力仕事だな」
「そうなんですよね~……」
「ま、見習いどもにやらせりゃいいか」
――エトの苦労を慮って、心中密かに十字を切るユーリ。何か手助けができないだろうか。
「……ハンドミキサーがあれば、何も問題は無いんですけどね……」
「ハンド……そりゃ何だ?」
何の気無しに呟いたのを、耳敏いマンドが聞き付けたようだ。
「え、え~と……材料を掻き混ぜるための……魔道具です」
キッチン家電などとは言えないユーリ、この世界の事情に合わせた説明をと思ったのだが、
「魔道具!? たかが材料を掻き混ぜるだけにか!?」
前世日本の家電普及率と、この世界における魔道具の普及率。その違いを認識していなかった。
「え~と……初期投資は大きいですけど、時間や労力の節約になる……と、思いますよ?」
前世日本の状況をカミングアウトするわけにはいかないし、それ以前にこちらの世界では労力や時間に対する価値観が違う可能性もある。いきおい、ユーリの言葉も自信を欠いたものとならざるを得なかった。
「回転運動は色々と便利なんですけどねぇ……」
「まぁ……便利なのは解るけどな……」
――実は、両者のイメージする道具の姿には大きな違いがあった。
ユーリは二十一世紀の地球で普及していたハンドミキサーを想定しており、シーリングの問題さえ解決できればミキサーやフードプロセッサー、延いては洗濯機や船のスクリューにまで応用できると考えていた。確かに応用範囲の広い技術である。
一方で、マンドがイメージしていたのは全く別のタイプであった。
この世界にも攪拌の魔道具は存在するが、それは単なる鉢の形をしていた。鉢自体に攪拌の魔法が刻印されており、中に容れたものを混ぜるという仕様である。ここからは、ミキサーやフードプロセッサー、あるいはハンドブレンダーのように、カッターで材料を粉砕……などという発想は出てこない。ユーリの夢想しているような発展形が見えないのも宜なるかなである。
双方イメージの内容は違うが、魔道具についてはアドンの判断を仰ぐしかないという事で、両者の意見は一致した。




