第六十二章 職人たち 1.錺職(その1)
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「クドルさん、今日は宜しくお願いします」
「おぅ。今日は俺一人だが……ま、物騒な場所へ行くわけでなし。大丈夫だろう」
「馬車の支度もできたようだし、そろそろ行こうかね」
「「はい」」
有り難くも人騒がせな祝福の件が片付いた翌日、ユーリはアドン・クドルらとともに錺職人の許を訪ねようとしていた。
ユーリの用事は、例の「斑刃刀」の刀装具を作るに当たって参考にするため――というものであったが、実は元々アドンが職人を訪問する予定があって、それにユーリが乗っかった形であった。
アドンの用というのは、これもユーリが関わっているのだが、手帳の装幀の件である。革装幀でなく布装幀という案が浮上してきたが、ものは何しろ手帳である。頻繁に取り出し取り扱うのが前提なので、装幀が革であれ布であれ、縁や角から擦り切れる事が予想される。なので、擦り切れそうな場所に予め金具を配しておくべきではないか――と、ユーリが前世の知見に基づいて忠告したのであった。
言われてみればと納得したアドン、早速職人のところに相談に行こうとしたところで、これはユーリの相談相手にも持って来いではないかと気付いたのが事の初めであった。
何しろこの錺職人ときたら、余計な事を詮索しない職人気質の上、アクセサリーや家具の飾り金具、馬具の飾りから刀剣の装具と、実に手広くやっているのだ。広く浅くを標榜するユーリのお手本のような人物である。デザインに関しても造詣が深いとなれば、これは会わないという選択肢は無い。
そこにクドルが同行する事になったのは、一にかかってユーリ対策である。
何しろこれまでの前科が祟って、ユーリに単独行動の自由は無い。一人にすると何を掘り出してくるか知れたものではない。況して明後日からは大市である。ドナとオーデル老人が同行するだろうが、それだけだといつぞやの「壊し屋」騒ぎが再発しないとも限らない。となれば、誰かそれらしい者が護衛に付くべきだ。そこで「幸運の足音」に白羽の矢が立ったのであるが……護衛の期間が大市の間となると、ゾロゾロ五人で護衛するのは動きづらいだけである。
――というわけで、「幸運の足音」のメンバーが一人もしくは二人で護衛に就き、残りは休息という話になったのであった。……メンバーたちが大市見物の暇を捻り出そうと画策した結果――ではない筈だ……多分。
余談ながら、この日オーデル老人とドナは普通に見物に出向いているが、護衛はナガラが務めている。
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アドンが手帳の金具の件で贔屓の錺職人――ヤグという名であった――と相談している間、ユーリとクドルは邪魔にならないように工房の中を見て廻っていた。クドルにしてもこういう場を訪れるのは初めてであったらしく、興味深げに見物している。
この世界、蝶番などの金具類の大量生産は一般化していない。そこまでの需要が無いのである。なので装飾金具などもオンデマンドの一品生産が基本であるが、見本を兼ねて職人が予め用意しておく事はある。
そういったものをふんふんと見物していたのだが、やはり二人の興味は武具類の装飾品に集中する。
「ユーリ、見てみろ」
「うわぁ……何ですかコレ?」
二人の目の前に並んでいるのは、モーニングスターを振りかざす甲冑の腕の部分――ただしサイズは小さめ――やら、青銅製と思われるライオン――らしき動物――の上半身やら、翼を広げたワシ――らしき鳥――やら、蛇を纏わせた頭蓋骨やら……要するに訳の判らない雑多なものの数々であった。ただし、どうやらこれも何かの飾りらしく、何れも台座のようなものが付いている。
「兜飾りってやつだな。後付けの」
「兜飾り?」
ユーリが知っている兜というのは、前世の日本で端午の節句に飾られていたミニチュアくらいである。それでも、鹿の角やら日輪やら「愛」の文字を象った飾りやら……奇抜なものが揃っていたのは憶えている。これらもその同類という事だろうか。
「お貴族様方は戦場で目立つのも仕事だからな。こーゆーのをくっ付けて、目立つところでふんぞり返ってるわけだ。……間違っても乱戦の中に埋もれるような、そんなはしたない真似はなさらねぇな」
なるほど――と納得するユーリ。貴族家の当主や嫡男が簡単に討ち取られるわけにはいかないし、一方で出陣した事を周知させなければならない。となると、こういう目立つ飾りを付けて、本陣に居座っておく必要があるわけだ。
「……だったら、こっちにあるのもその口でしょうか?」
「ん? ……あぁ、こいつは多分、鎧の胴に付ける飾りだろうな。こいつも後付けでくっ付けるんだろう」
鎧兜の飾りというのは最初から付いているものだとばかり思っていたが……どうやらこちらの世界では、後から追加するオプションのようなものであるらしい。
「いや? 最初っからくっ付いてるのも多いぞ? ただ、そういうやつは得てして値段もそれなりだからな。出来合いの甲冑にこういったものを付けたって、戦場で目立つ事に変わりは無いしな」
「なるほど……でも、どうやってくっ付けるんでしょうか?」
溶接でもするのだろうかと訝っていたユーリの後から、
「大抵は魔道具だな」
――という声がした。




