第六十一章 祝福顛末記 3.副作用対策
ナウド司祭が言うには、
「性別が揺らいで見えるのは、最初の一瞬だけですからね。要はその一瞬を上手く
やり過ごせばいいわけで」
教会の歴史はそこそこ長いので、この手の対策もあれこれと工夫されてきたらしい。
「一番簡単なのは、最初の一瞬だけ顔を伏せるという事です。内気な性格だという事にしておけば、そう不自然でもないですし」
「ふむ……」
ユーリは人付き合いを面倒がっていると言うか、警戒しているようなところは確かにある。しかしそれは、内気というのとはまた少し違うような気がする……
「それから、目立つアクセサリーなどを着けて、視線をそちらに誘導する――というのもありましたね」
「……ユーリ君、目立つのは嫌がると思うんですけど……」
「目立つのはあくまでアクセサリーであって、ユーリ君本人ではありませんよ。しかしまぁ、派手なアクセサリーなんかだと、余計な関心を招く事にはなるかもしれませんね」
「……司祭様には何かお考えが?」
「いえ。過去の例では派手なアクセサリーではなく、小さな魔道具を使ったそうですよ。一瞬だけ視線を誘導して、しかもそれと気付かせなかったとか」
「ほほぉ……魔道具……」
魔道具と言えばインバの魔道具屋である。後で相談に行ってもいいかもしれない。
「あとは……副作用を逆手に取った例がありますね。その方は女性だったんですが、こう……髪をバッサリと短髪にして、少年っぽく見える理由を作っていたそうです」
「えーと……ユーリ君の場合だと、髪を伸ばして……?」
「……あまり気は進みませんね……」
ただでさえ童顔で女顔なのは、前世以来のトラウマなのだ。これ以上それを強調するような真似など願い下げである。
「そうすると……アクセサリーか魔道具に頼る事になりそうですね」
――だとしたら、これはインバに相談するのがいいだろう。
「色々とありがとうございました、司祭様。後ほどお礼を持って伺いますので」
「いえ……寄進の事は気にしなくていいですからね? 本当に」
「ありがとうございます。……それと、女神アナテア様への供物ですけど……何をお喜びになるでしょうか?」
「心さえ籠もっていれば、何でも構わないと思いますよ? でも……そうですねぇ……お勇ましい女神様ですから、それを顕示するようなものとか……。あとは曖昧な……と言うか、二つの属性の狭間にあるようなものを捧げる事はありますね」
「属性の狭間……?」
「えぇ。例えば……木なのかどうか曖昧なヤドリギなんかは定番ですね」
「……鳥と獣の中間っぽいコウモリとか、水陸両棲のカエルとかですか?」
「いえ……さすがにそういうのはどうかと……」
・・・・・・・・
「そりゃまた……ご愁傷様と言うのか、ご同慶の至りって言うべきなのか……」
「一応は言祝いで下さいよ。それで相談なんですけど……」
「神の祝福をどうこうできるような魔道具は無いよ」
ナウド司祭の教唆に従って、ユーリたちはインバの店を訪れていた。
「でも……そうさね。今の坊やの問題をどうにかできるものって言えば……無い事もないね」
仔細ありげな台詞とともに、インバは店の隅の、十把一絡げコーナーへと向かう。見習い職人の失敗作や微妙作を置いているコーナーである。
「……変装の魔道具を作ろうとして、失敗したやつなんだけどね。容貌を変える事は一応できたんだが、出力面に不備があって、一瞬だけしか誤魔化せないのさ。けど――」
一瞬だけ少女に見えるという問題をどうにかしたいユーリにとっては、まさに打って付けの品であった。
「買います」
「毎度さん」
――斯くしてユーリは、ステータス偽装に纏わる諸問題をクリアーする事に成功したのである。……本人主観では。
「ま、顔を合わせるタイミングで起動しなくちゃならないのが、ちょいとばかり面倒なんだけどね」
「その辺は運用でカバーします。至善でなくとも次善・三善の策を用意しておいて、悪い事はありませんから」
……魔道具だとバレた場合、そういう魔道具を身に着けている理由をどう説明するのか――という問題点については、この時は誰の頭にも浮かばなかった。
お断りしておきますが、今後〝腐〟な展開は予定しておりません。




