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第六十章 ある休息日 7.祝福されし者

 再び場面変わって、こちらはユーリである。


 うっかり【鑑定】など受けたせいでややこしい状況に陥った事は自覚したものの、とりあえず鑑定書の事は黙っておいて、後日何とか理由を付けて、あの司祭の口を封じておく――という方針が一応固まった事で、沈殿していたユーリの気分も少しだけ上向いていた。元々悲観的な性格ではなかったし、生まれ変わってからは前向きに生きると決意しているのだ。こんな不遇なんかに負けるもんか。


 そう考えながらアドンの屋敷に舞い戻ったユーリであったのだが……



「もしもしお嬢ちゃん、ここに何の……あ、いや、失礼。ユーリ様でしたか」

「? はい、ただ今戻りました。……あの? 通っても?」

「勿論ですとも。……人違いして失礼しました」



 間違えられたユーリも、間違えた門番も、何となく微妙な表情であったが、ともかくその場はそれで収まった。


 内心で首を(かし)げつつ――これは門番も同じ――玄関へ向かったユーリであったが、玄関を開けて屋内に入ったところで……



「お嬢様! 独りでお外に出てはいけませんとあれほど……あ……ユーリ様でしたか」



 声をかけてきたのはアドン邸のメイド長であった。



「?? はぃ、僕ですけど……あの?」

「いえ……失礼いたしました。……ヤナお嬢様がまた独りで外に出ていらしたのかと」

「え? ヤナちゃん、また外に出ちゃったんですか?」



 アドンの孫娘――長女の娘――であるヤナは現在五歳。好奇心旺盛なお年頃である。目を離すと勝手に家の外に出ようとするので、家族および使用人一同の厳重な監視下に置かれている筈だが……



「いえ……(わたくし)の勘違いのようでございます。重ね重ね申し訳ございません」

「いえ……勘違いならいいです……」



 門番に続いてメイド長にも間違えられた事でユーリは内心首を(ひね)っていたが、それはメイド長も、ついでに言えば先程の門番も同じであった。

 (しか)と見据えれば、目の前にいるのは紛れも無くユーリ。どこからどう見ても一人の少年である。七つも年下の少女と間違える要素など無い筈ではないか。確かにユーリは童顔で、年齢よりも若く見えるが……いや? 気のせいか少し女顔になったような……?



・・・・・・・・



(う~ん……一体どうしちゃったっていうんだろ……?)



 夕食後、自室に引き取ったユーリは困惑に沈んでいた。


 何しろ門番とメイド長を皮切りに、出会う者の多くがユーリを少女と一瞬だけ誤認するのである。すぐに勘違いに気付いて謝ってはくれるのだが、そんな事が続けて起きると……



(……さすがにおかしいよね? けど、思い当たる節と言えば……)



 昼に教会で戴いた祝福くらいしか思い付かない。だが、女神の祝福を貰ったからといって、性別を間違えられるような事があるのか?



(……確かに、アナテア様は一見性別不明な印象だったけどさぁ……だからって、幾らなんでも、そんな……事っ!!)



 一転してユーリの脳裏に閃いたのは、女神アナテアの別名であった。


 ナウド司祭は彼女の事を、〝曖昧なものや境界線上の存在の守護者〟と言っていなかったか?

 であれば、〝曖昧な存在の守護者(ア ナ テ ア)〟の祝福というのは……



(まさか……性別が変わってるなんて……?)



 惑乱して自分の身体を確かめ、ステータスを確認してみたのだが……



「大丈夫……ちゃんと……男のままだった……」



 性別に変化は無いし、(おも)()しも特に変わっていないようだが……



(……ひょっとして……一瞬(かい)()見た時の印象だけが、女の子っぽくなるのかな……?)



 何という傍迷惑(はためいわく)な祝福なのだと(くずお)れたユーリであったのだが……



(……いや……逆に考えれば、チラ見されただけの目撃証言を攪乱できるって事だよね? だったら、これはこれで使いどころがあるのかな? …… あぁでも、紛らわしいって事が知られていると(まず)いのか。……まぁそれでも、使い方によっては有益そうだよね)



 ――と、前向きに捉える事にしたようだ。



(そうとでも考えなきゃ、やってられないよ……)

話の顛末は次の章で。

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― 新着の感想 ―
なんて祝福だw 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、 パット見れば美少女、良く見れば美少年、しかして中身はアラフォー親父? なかなかキマッとるねw
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