第四章 麦を食いたい 2.麦藁
裸麦の籾摺りや風選は後に回すとして、麦刈りによって得られたもう一つの資源、すなわち麦藁をどうするか……。
無い無い尽くしの廃村生活では、麦藁といえども立派な資源である。畑に撒いて防草用のマルチの代わりにするも良し、堆肥に使うも良し、燃料として使うも良し、縄や蓆の材料にするも良し、あるいは……麻袋に詰め込んでベッド代わりにするも良し。
「……ベッドかぁ……今はともかく、寒くなったら暖かいベッドと布団は必要だよね。藁や干し草は、ベッドの詰め物に使う事も考えて、無駄遣いはしない方が良いか……」
乾いた麦藁は火付きは良いのだが、どのみち火力の点では物足りない。着火には火魔法を使うから、燃料としては普通の薪だけで充分だろう。いや、その「普通の薪」すら、現状では不足しているのだが。
「納屋の一つに薪が何束か残っていたのが幸いだったな……こっちもなるべく早く補充しなくちゃいけないな……」
灯りについては、生活魔法の【点灯】も闇魔法の【暗視】もあるので、現状そこまで緊迫感は無い。しかし燃料としての薪の方は、機会があれば集めておくようにするべきだろう。
それはそれとして藁である。
「藁縄っていうのは魅力だけど……単純に強度で言えば、藁じゃなくて蔓だとか、草木の繊維を利用した方が丈夫なんだよね……」
生前読んだ本にもそういう事が書かれていた。正確に言えば、藁縄が劣っているとは書いてなかったが、草木の中に藁より丈夫なものがある事は知っている。また、【田舎暮らし指南】にも、草木の繊維から丈夫な縄を作る方法が載っている。藁の利点はと言えば、材料が多量に安定して手に入る事であろう。
「ある程度は藁縄にしてもいいけど、縄の材料として藁でなきゃ駄目……って事は無いみたいなんだよなぁ……」
代替素材があるのなら、藁縄に固執する必要は無い筈だ。これは堆肥やマルチ材についても同様だろう。
「蓆は……農作業の時なんか、あれば便利なんだろうなぁ。けど……」
あれば便利という事は、無ければ無いなりにどうにかなる、という事でもある。確かに使いどころはあるだろうし、その時になってすぐ用意できるというものでもない。それは確かなのだが、蓆一枚編むのにかなり多くの藁を使う事になりそうだし、藁の量に余裕が無い現状では、気軽に編むという選択をしづらい。
となると……
「……消去法で、ベッドの詰め物かぁ……」
当初は予想もしなかった用途がピックアップされて、意外の念を禁じ得ない。
「そうすると……詰め物を入れるための麻袋みたいなのが必要になるんだけど……」
――そんなものは、無い。
そして、田舎暮らしの基本は……
「無いなら作る、か……」
そうすると、当面確認が必要なのは、麻もしくはその代わりに使えそうな繊維植物の存在である。
「明日にでも確かめた方が良いな……」