第六十章 ある休息日 1.冒険者ギルドにて
インバの店で魔道具を発注した翌日、ユーリは朝から冒険者ギルドを訪ねていた。ギルドからの呼び出しがあったのを幸いに、その日は魔製石器の作製指導を休みにしたのである。慣れない作業で――実際には不慣れだけが理由ではないのだが――ファレンが疲れていると見たユーリの判断であった。生前三十七年間の人生経験は伊達ではないのである。
そして、ユーリを迎えた冒険者ギルドのギルドマスター、ナバルが切り出した用件とは、
「ポーション? 僕が作ったやつですか?」
――ユーリ自作のポーションを譲ってもらえないかというものであった。
「そりゃ――譲るに吝かではありませんけど、何でまた? 所詮は子供が見よう見まねで作った下級ポーションですよ?」
ユーリは心底からそう言っているのだが、傍らで聞いていた冒険者たちは、揃って内心で突っ込みを入れていた――〝アレのどこが下級ポーションだ!?〟
「……確かに製法は下級ポーションかもしれんが、使ってる材料が普通じゃねぇだろ? モノコーンベアやバイコーンベアの肝なんざ、普通の下級ポーションにゃ使わんだろうが?」
〝そうだそうだ!〟――と、内心で突っ込む冒険者たち。
「えぇまぁ、一部の材料はありもので代用しましたから」
「……魔獣の肝をありもの扱いかよ……」
金貨数枚が吹っ飛びそうな素材を軽く在り合わせ扱いするユーリに、ギルドマスターも引き気味であったが、ユーリにはユーリの言い分がある。自分の住む村の辺りでは、寧ろこちらの方が得易いのだ。あるものを使ってどこが悪い。
「いや……悪いたぁ言ってねぇ。……色々下界たぁ違うんだなと、感心してるだけだ」
頭を振って余計な感慨を振り払ったギルマス、改めてユーリに譲渡を要請する。
「……とにかくだ、材料のせいなのか、ユーリのポーションは効果が高い。ギルドとしちゃあ是が非でも欲しいところなんだが……何しろ材料が材料だ。正直、原価はどれくらいなんだ?」
最低でもモノコーンベアの肝――下手をするとギャンビットグリズリーやティランボットの肝――なんて代物が使われているポーションである。原価を確かめておかねば、怖くて買い取れそうにない。
「そんなに高くはないですよ? 肝を使ってるって言っても、ポーションに使う量くらいの量ならしれてますし。第一、材料の全てが自前で揃いますから」
ユーリにしてみれば、【調薬】の練習がてらに作っているようなものである。正直、無料で譲渡しても構わないのであるが、冒険者ギルドの立場上それは受けかねるらしい。
原料の分量比を聞いたギルドマスターは、しばし思案していたようだが、やがて市販の下級ポーション――買い取り価格ではなく市販価格――の二倍ほどの額面を提示してきた。
「……いいんですか? こんなに戴いちゃって」
「構わねぇよ。材料が材料だけに、ほとんど中級ポーションに迫る効果があったからな」
効果の点だけを考えれば、普通の中級ポーションの方が高いだろうが――
「クールタイムっつってな、上級のポーションほど、連続使用に制限がかかるんだ。けど、ユーリのポーションは、効果が高い割にクールタイムが短いからな。冒険者にとっちゃありがたいんだ」
「そういう事でしたか……。けどギルマス、あくまでも自家製自家用のポーションですからね。材料とか効果には若干のばらつきがありますよ?」
「あぁ構わねぇ。それくらいはウチの方で按排すらぁ」




