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第五十八章 ローゼッド狂躁曲 1.家宝の拵え

 発端はアムダルとの会話であった。



〝随分な業物(わざもの)のようだが、それにしては(こしら)えが随分と質素だな?〟

〝祖父が言ってました。鞘に付いていた飾りのようなものは全て、路銀の足しに売り払ったそうです〟



 事実には(かす)りもしない説明であったが、それでもユーリが取り出した「刀」が、(はた)()にも不自然に見える程度には(こしら)えが質素である事は判った。



(あまり質素過ぎると、(かえ)って不自然なのかな……?)



 転生者である自分には、この辺りの感覚が今一つ掴めない。それを自覚しているユーリは、アドンとオーデル老人、場合によっては「幸運の足音」の面々にも相談した方が良いだろうかと考える。


 ――考えたところで、もう一つの「刀」の事を思い出した。


 ユーリの家に代々伝わる秘宝……という事になってしまった「(まだら)()(とう)」の事を。



(……あっちは家宝って事になってるから、鉄刀以上にちゃんとした(こしら)えが必要だよね……)



・・・・・・・・



「ふぅむ……言われてみれば確かに……」

「いくら何でも、家宝が白木の鞘というわけにはいくまいのぉ……」



 人目に(さら)すつもりが無いとは言っても、いつどこでどう転ぶか判らないのが運命の賽子(さいころ)というやつである。豪華ではないにせよ、家宝としておかしくない程度の(こしら)えはあった方が良いだろう。



「しかし……下手に職人に見せるわけにもいかんぞ?」

「えぇ、ですから、とりあえずは僕が適当にそれっぽいものをでっちあげるしかないと思うんです」

「ふむ……」



 十かそこらの子供に何ができる……などと言うには、アドンもオーデル老人もユーリという規格外を知り過ぎている。エムスの木工所で見せてもらった()(つけ)の細工も中々だったし、それ以前にサヤとセナが貰っていた人形も見事な細工だった。どうせあれもこの子が作ったものだろうから、細工の腕は確かな筈だ。



「さすがに凝った細工は作れませんけど、鞘に塗装するくらいならできるんじゃないかと思うんです」



 ユーリなら「凝った細工」というのも簡単に作ってしまいそうな気がしたが、塗装が優先という指摘には同意せざるを得ない。



「そのとおりだな……エムスに訊こうというのかね?」

「はい。木への塗装なら、本職に訊ねるのが一番だと思いますし」

「ふむ……あのような刀剣の(こしら)えなど、正直私には解らんからね。アドバイスのしようも無い。しかし、飾り以前に塗装というのは正しいだろう」

「じゃな。木工職人なら、その辺りも詳しいじゃろう。……そのエムスとやらは、信用のおける相手なんじゃろう?」

「勿論だ。それ以前に、ローゼッドの仕入れ先の機嫌を損ねるような真似をするような馬鹿ではないよ」

「なら、詳しい事情は伏せて、塗料についてだけ訊いてみるのが良いじゃろう」

「丁度好い。明日にでも工房へ行こうと思っていたところだが、ユーリ君もそれでいいかね?」

「はい、僕の方は構いません。けど、明日またって、随分()(ぜわ)しいですね?」

「なに、ユーリ君が教えてくれた、()(つけ)と名刺の件を相談しなくてはならないからね」



 あ~、そっちか~と納得するユーリ。こないだは随分食い付いていたようだったし、色々と打ち合わせもあるのだろう。



「……ふむ。それとは別に、(かざり)職人の仕事も見ておいた方が良いじゃろうな。アドンよ、お主、手頃な職人に伝手(つて)ぐらいは持っておるじゃろう?」

「それは大丈夫だが……ユーリ君の故郷の(こしら)えにするのなら、参考にはならんだろう?」

「それはそうじゃが、目立ち過ぎぬ(・・・・・・)飾りのあり方というものを知っておいた方が良いと思っての」

「あぁ……なるほど、確かに……」



 こういった次第で、日を改めて(かざり)職人の仕事を見学する予定が決まったのであった。

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