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第四章 麦を食いたい 1.収穫

 そろそろ裸麦が食べ頃なので、畑を廻って収穫していく事にする。幾つかはそのまま種籾(たねもみ)用に完熟させる予定だが、それを抜きにしても当初思った以上の量が穫れそうだ。

 村のあちこちに広がる畑に、しかもあちらに一株こちらに二株という具合に散生しているため、当初は生えている量を過小評価していた。しかしその後、改めて村内を見廻ったところ、思っていた以上にあちこちに生えている事が判ったため、予定を変更して、一部を種籾(たねもみ)に残した他は食糧として消費する事にしたのである。


 折角熟した裸麦を食べられては(たま)らないので、小鳥たちとは交渉の上、少なくとも今年実った分は食べない事、代わりに種籾用だったらしい古い麦を提供する――量的には(むし)ろこちらの方が多い――事、新しく得た種籾の幾つかは村の外の空き地に蒔いて殖やす――こちらは小鳥たちの取り分だ――事、という線で合意に達している。神から貰った【言語(究)】だが、人間との交渉以前に、予想外の役立ち方をしていた。



 そして、裸麦の収穫であるが……



「……やっぱり、鎌で地道に刈っていくしか無いか……」



 ユーリが少しばかり残念な様子なのには理由がある。折角貰った風魔法で一気に刈り払って……というような事を考えていたのだが、生憎(あいにく)と肝心の裸麦はあちこちに(まば)らに生えており、一気に刈り払って収穫というわけにはいかない。また、仮にそうしたところで、散らばった穂を拾い集める手間は変わらない。

 と、いうわけで、地道に鎌で収穫していくしか無いのであった。


 覚悟を決めたユーリが一株一株刈り取っていったのだが、これが地味に重労働であった。ステータス値は平均より高いとはいえ、ユーリはまだ七歳。手の大きさはどうにもならないのだ。小さな手で掴める茎の数は大人よりもずっと少なく、しかもここの裸麦ときたら、分蘖(ぶんけつ)数がいやに多く、一株のサイズが明らかに大きい。結果、一株を刈るのに大人の倍近い――慣れていない事を考えると恐らくそれ以上――の時間を要していた。

 一株分を束にして(まと)めると、その都度【収納】に仕舞い込んでいく。

 そうやって村のあちこちにある畑を廻り――途中で昼食を挟んで――裸麦を収穫し終えた頃には、既に日は傾き始めていた。


 本来なら、ここで「はざ掛け」をして刈った麦を乾燥させるのだが、ユーリは手間を省きたいのと、農作業に魔法がどの程度使えるのかを知りたいため、水魔法と風魔法、それに念のため――殺菌目的で――光魔法を発動しての乾燥を試みていた。


 農作業のためというのは――世の魔術師たちから盛大なブーイングが聞こえてきそうなので――()くとしても、同時に三つの魔法を併行発動するという事自体が規格外なのだが、新米転生者のユーリにそんな常識があろう筈もない。

 神から貰った膨大なMPと熟練度を存分に使い、三つの魔法を併行発動させて、裸麦の乾燥を進めていく。



「思ったより時間がかかった……脱穀、終わるかな……」



 本来なら一週間ほど干しておくのを一時間足らずで終わらせておきながら、時間がかかったも何も無いものだ……というような突っ込みを入れる者は、残念ながらここにはいない。



「さて……上手くいくか?」



 ユーリが持ち出したのは、土魔法で試作した(せん)()である。麦用に歯の間隔は広めに作ってある。この辺りは、生前に趣味で読んでいた園芸書からの知識である。まさかこういう局面で役に立つとは思っていなかったが。


 脱穀を終えた麦はしばらく乾燥させておく必要があるのだが、これも先程と同様に魔法でさっさと片付けてしまう。



「もう時間も無いし……(もみ)()りとか風選とかは明日かな」



 (もっと)も、早速試食する分を少しだけ用意するくらいなら、さして手間ではないのであった。



 初めて収穫して初めて作った裸麦の(かゆ)は、正しい「はざ掛け」を省略したせいか思っていたほど美味しくはなく、けれど何とも言えず感慨深い味がした。


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