表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/312

第五十五章 魔法使いの弟子 1.作業場にて(その1)

 エムスの工房に行った翌日、ユーリはアドンの屋敷で客人を待っていた。



「……その方はアドンさんのお知り合いなんですか?」

「会った事は勿論あるが、正確に言えば私の恩師の弟子なのだよ。魔術の力量と為人(ひととなり)は恩師が保証してくれている。……何しろ、ユーリ君ほどの力量を持つ土魔法使いというのを探すのが大変でね……」



 アドンの言葉に妙な顔をするユーリ。塩辛山最底辺の自分を上回る魔術師など、そこらに幾らでもいそうなものではないか?



「……まぁ、その話は()くとして……既にこの件は、()(かつ)な者を引き込むわけにはいかない状況になっている。それはユーリ君もナガラから聞いているだろう?」

「あ、はい……」



 ユーリの自覚の無さについては、既に関係各位の共通認識となっている。その件に突っ込むのは時間の無駄だとスルーしたアドンが口にしたのは、ユーリに会うべくはるばるやって来たエルフの男性ナガラの事であった。この件に関してはアドンの護衛を務めているという事で、アドンに付き従ってエンド村を訪れたナガラから、それはもう延々(えんえん)切々(せつせつ)滔々(とうとう)綿々(めんめん)と、いかにエルフたちが魔製石器を待ち望んでいるかの熱弁を聴かされる羽目になったのであった。



「そういうわけだから、身許の確かな事に加えて、万が一にも石器の作製に失敗する事の無い者を募る事になってね。私一人ではどうにも(らち)が明かないので、恩師の協力を仰いだのだよ。ちなみに恩師はこの国有数の魔導師でね、前にも話したように、機会があれば君に会いたいと言っておいでなのだが……」

「あ、はい。僕の方は構いません」



 ユーリがそう答えたところでヘルマン執事が現れ、待ち人の到着を告げた。



・・・・・・・・



 マガム教授の高弟にしてこの国有数の若手魔術師と目されるファレン。その彼が引き合わされたのは、十を幾つも超えていないだろうと思える子供であった。さすがに驚きはしたものの、育ちの良さから丁寧な態度を崩さないファレン。何しろマガムとアドンからは、くれぐれも()(しつけ)な真似はしないようにと太い釘を刺されている。それに子供とは言え、一時的とは言え、仮にも指導を受ける相手なのだ。



「……お初にお目にかかります。自分はマガム教授の弟子で、ファレンといいます。()(たび)は土魔法による石器の作製をご指導戴くようにと言いつかって参りました。どうかよろしくお願いします」



 マガムがファレンを推挙した理由の一つが、この礼儀正しさである。元々魔術師は実力がものを言う職種であり、年齢や出自に重きを置く者は少ない。そんな魔術師の中にあって一際(ひときわ)礼儀正しく、目下年下の相手にもきちんと礼を尽くせる――この点は彼の育ちの良さが奏功しているらしい――という事で、ユーリ相手にも()(しつけ)な振る舞いに及ぶ事は無いだろうと思われたのである。



「これはご丁寧なご挨拶、痛み入ります。僕はご覧のとおりの若輩者、魔術師の方に指導などとは烏滸(おこ)の振る舞いとお思いでしょうが、しばしのお付き合いをお願いします。また、田舎者の事ゆえお気に障る振る舞いもあろうかと思いますが、何卒ご寛恕(かんじょ)の程をお願いします」



 そんなファレンであったが、子供とは思えぬ丁寧な挨拶(あいさつ)を返されるに及んで、毒気を抜かれたような思いであった。



「あ、あぁ……こちらこそ宜しく……」



 どうも、見た目で判断してはいけない相手らしい。恩師からもそう言われては来たが……これは一筋縄では(はか)れない相手のようだ。



「それでは、早速ですが……」

「あぁ、はい、宜しく」

「作業についてはこちらの部屋を使ってくれたまえ」



 アドンに案内された部屋で、用意された材料を――一言断って――【鑑定】してみるファレン。その結果は……何の変哲も無い土であった。



「色々試してみたんですけど、地表に露出している土でないと、魔力の馴染みが悪いんですよね」

「あぁそれは、普段から魔素に接しているかいないかの違いでしょう」



 ここフォア世界では、魔力への親和性は魔素に触れた期間の長さに比例する。地中深くに堆積していた鉱物や粘土などは、大気中の魔素に触れる機会が減るため、その分だけ魔力に馴染みにくい。鉄に代表される金属器の多くが魔力に馴染まないのは、これが一因となっている。その一方で普通の表土は、普段から魔素を含んだ空気に触れているため魔力への親和性は高く、その土で作ったナイフも魔力を通した時の切れ味が良いという事になる。


 ――というような事を説明されて、なるほどと色々腑に落ちるユーリ。そんな仕組みがあったとはついぞ知らなかった。さすがに本職は違うものだと感心する事(しき)りである。対してファレンの方は戸惑いを禁じ得なかった。こんな初歩的な事も知らないで、魔製石器などという代物を造れたというのか?


 ……しかし、そんな思いもすぐに吹っ飛ぶ事になった。



「じゃあ、始めましょうか。魔力だけ(・・)を使って、土を綺麗に()り潰して下さい」

「……はい?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いい加減自分が最低じゃないと今までの話の中でわかる気がするんですけど?Bランクの魔物を倒しといて自分が最低は無理があるかと最初はランク知らないから最低だと思ってたってのはわかるが今は37歳な…
[一言] うーん、この初歩を知らないから初手で最難関を持ってくる……え?まだ序盤??
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ