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第五十四章 紙の国 3.紙鍋

「……いや、これはここだけの話にしてほしいんだが……軍の装備にどうかと思ってね」



 前世日本に生きていた頃、色々と書物に親しんだユーリではあったが、さすがに兵士の装備に紙鍋というのは聞いた事が無い。内心で(いぶか)っていたところ、アドンが説明してくれた。



「紙製の鍋なら軽いだろうという事もあるのだが、実は食器を洗う水が毎回馬鹿にならないという話を聞いた事があるのだよ。かと言って、洗わずに持ち歩けば衛生上の問題がある。行軍中に病人が発生するなど、軍としても避けたいだろう。しかしこの紙鍋なら、使い終わったらそのまま焚き付けに使えばいい」



 得々と説明するアドンに一同感服の(てい)であったが、一人ユーリはアドンの誤解に気付いていた。



「……あの……アドンさん……所詮は紙ですから、支えられる重さには限界があります。大鍋みたいなものは作れないかと……」



 生前親に連れられて行った料亭で紙鍋を見た事はあるが、あれも一人用の小鍋だった。それに、紙鍋を単独で火に掛けるのではなく、金網のようなホルダーにセットして加熱していたはずだ。そう説明すると、当てが外れたアドンはがっくりときていたようだったが……



「……じゃったらユーリ君、紙鍋の利点とは何なのかね?」

「確か……紙なので鍋のアクを吸い取ってくれたんじゃなかったかと……」

「アクを吸い取るって?」



 聞き捨てならぬとばかりに、アドンに代わって身を乗り出したのは、料理長のマンドである。



「え、えぇ……確か、そうだったかと……」

「お待ち下さい、ユーリ様。それは……その紙鍋は、各人の前に置かれたものを、銘々が調理するのでございますか?」

「あ、はい。そうだと聞いています」



 ユーリの回答を聞いて、複雑な表情を見せる一同。小鍋立て形式の料理というのは、この世界では見られない調理法である。自分で料理人の真似をする事に客がどう反応するかという問題もさることながら、口に出して言えないもう一つの事情があった。毒殺対策である。

 シチューのように大鍋で作る料理なら、特定の誰かを毒殺するという事はできない。また、獣肉の丸焼きなどは目の前で料理人が切り分ける習いなので、これも衆人環視の(もと)にある。しかし、ユーリの言うような小鍋立ては、そういう安全性のアピールができない、もしくはやりにくい。



「宿屋なんかで不特定多数の客相手に出すんならいいんでしょうが……」

「晩餐会などでは出しにくいな……」



 やんごとなき方々の食事は大変だなぁと、のほほんと構えているユーリ。言うべき事は言ったのだし、実用化で頭を捻るのはアドンたちの仕事だ。……そう思っていたのだが、余計な事を思い付いてしまった。思い付いた以上は口に出すべきだろう。物言わざるは腹膨るる心地する、と言うではないか。



「……アドンさん、今思い付いたんですけど……紙鍋を魔力で強化する事って、できませんか?」



 唐突に突飛な事を言い出したユーリに、一同呆れた眼を向ける。紙鍋だけでも大概な話なのに、更にそれを魔法で強化する? 何を考えているのだ? この子は。



「いえ、僕の石器も土魔法で強化したものですし、木魔法か何かで強化したら、調理の間くらいは()ちませんかね?」



 ――大人数用の紙鍋が作れない理由は剛性の欠如にあるのだから、魔法で強化してやれば、大きな紙鍋というのも作れなくはないのではないか?


 ユーリの指摘に考え込む一同。ユーリも試した事は無いというが……これは試してみるだけの価値があるのではないか?



「……知り合いに訊ねてみよう。それまでの間は、皆もこの話はここだけの事にしておいてくれ」

「あとですがアドンさん、一応調理に使うものですから、使用する紙に有害なものが含まれていな事を確かめておかれた方が……」

「あぁ、そっちの方も確認しておこう」


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