第五十三章 珍木の歓待 2.ローゼッド小物事始(その1)
そういう頼み事をする面々は、裕福でこそないが普段から何かと付き合いのある連中らしく、エムスとしても中々突っぱねにくいらしい。
「端材くらいなら構わないんじゃないですか?」
――と、ユーリは思ったのだが、
「それがそう簡単でもなくてな。端材をそのまま持ってたって何にもならんから、何か彫るなりなんなりしなくちゃならん。けど、ローゼッドってやつぁ素人の手に負えるような代物じゃねぇ。職人に渡すしかねぇわけだが、そこらの半端職人じゃ手に余る代物だ……」
結局、指物職人か彫刻工に持ち込むしか無いのだが、そこまでの手間賃が払えるような連中ではない。それ以前に所詮は端材なので、ちゃんとしたものを作るには嵩が足りないのだという。
話を聞いていたユーリの方は、困惑の思いを禁じ得なかった。エムスの話を聞いている限りでは、木工細工の小物アクセサリーというものが存在しないように聞こえるのだ。前世の日本にいた頃は、木工細工のブローチを着けた女性も結構目にしたものであるが……
「ふむ……何か良い知恵はないかね? ユーリ君」
「……その前に教えて下さい。こちらの国には、木彫りのブローチなんかは無いんですか?」
念のためにと確認したところ、二人からは呆気にとられた視線を返された。
「いや……いくら酔狂でも、木切れくっ付けて喜ぶ女はいねぇからな?」
「アクセサリーというものは、宝石か貴金属と決まっているよ? ……少なくともこの国では」
なるほどと一つ頷いたユーリは、ならば小さな木彫りの置物などは無いのかと訊ねる。
「いや……そもそも普通の木なら、態々飾ろうなんて気は起こさねぇからな? ローゼッドだから飾ろうって話になって、けど、ローゼッドは堅ぇからそこらの職人にゃ手が出ねぇって話だから」
「それ以前に、小物の木彫りというのは無いんですか?」
「あぁ、ユーリ君。そういったものを飾ろうとするのはある程度裕福な者だけで、そういう者は木ではなく別の素材を好むからね。……今回のようなローゼッドは別だろうが」
「貧乏人は飾りなんて端から考えやしねぇからな。……今回のようなローゼッドは別として」
なるほど――と、ユーリは理解する。そもそも受け皿としての需要自体が無いらしい。それなら小物彫刻などを引き受ける職人もいないだろう。
「根付なんかも無いんですね?」
「「根付?」」
「あぁ……何と言うか……」
説明するより見せた方が早いだろうと、ユーリはマジックバッグから――実際には【収納】から――木彫りの根付を取り出した。魔獣の骨で根付を彫った時、ついでに作った木製のものである。……色々な効果の付いた骨製の根付を、迂闊に取り出すような真似はしない。ユーリはこれでも慎重な性格なのである。
「……こりゃあ……小っこい割にゃあ随分と凝った……」
「鳥獣戯画」に想を得た兎の木彫りなのだが、エムスの目には凝った細工に映ったようだ。
「……ユーリ君、これはどういうものなのだね?」
「え~と……煙草入れ……っていうか、小さな容れ物なんかを腰に提げる時に……」
小物に付けた紐の端にこの根付を付けて、それを帯の下に潜らせ、落ちないように引っかけたのだと説明すると、二人はあんぐりと口を開けた。