第五十一章 殿様と私 7.骨と沈黙(その2)
「……確か…魔道具に異なる属性の魔力を流した場合は、効果が減少した筈だ。逆に言えば、属性が違ってもある程度の効果は出せる」
少し疲れたような声音で口を挟んだのはナガラであった。……少しだけ、少しだけだが……この少年の事が解った気がする。
「属性を持たない魔力を流してやれば――」
――と、ユーリが言いかけたところで、
「――あぁ? 馬鹿な事を言ってんじゃねぇぞ? 無属性の魔力なんざ、扱える者がいねぇだろうが。俺だって知ってるこった」
むすっとしたようなクドルに打ち消される。……何か穏やかならざる気配を感じたのかもしれないが、ともあれクドルの助言(?)によって、無属性魔力については黙っておいた方が良さそうだと察するユーリ。
「……まぁ、ユーリ君くらい魔力が大きければ、属性が違っていても問題にならないのだろうが」
「いや、要は自分と同じ属性の骨器を選べば良いだけの話でしょう」
「問題は、それだけ多くの素材があるかどうかだが……ユーリ?」
「あ、はい。それは大丈夫です。一通りの属性が揃ってましたから」
全属性の魔法を持つか、もしくは【鑑定】系のスキルを持っていなければ確認できないような情報を、それと気付かず口にするユーリ。そして、それを見て諦めたような溜め息を吐く一同。
「……説教は後に廻すとして……ユーリ、コイツはどうやって造ったんだ?」
「あ、はい。か……」
【鍛冶】と【錬金術】を同時に発動して――と言いかけて、これは明かして良い情報なのだろうかと逡巡するユーリ。去年ローレンセンへ行った時には、どちらも持っていなかった――【錬金術】は〝(見習い)〟だった――のを、一年で揃えたというのはさすがに怪しまれるのでは……
「……あぁ、【鍛冶】と【錬金術】についちゃあ気にすんな。どうせ自己流で変なやつを身に着けたんだろうが……ユーリの場合は今更だからな」
「そうよユーリ君」
「で、【鍛冶】と【錬金術】のどちらで造ったのかね?」
生温かい励ましの声に勇気づけられて、
「えーと……同時に使っていたような気がします。……ていうか、気付いたら使っちゃってました」
案の定、穏やかでも月並みでもないカミングアウトをしてのけたユーリに、深い溜め息で答える一同。
「……あ、でも熟練者だったら、多分どちらか一方でも造れるような気がします」
――大いに疑わしい意見である。
「……他の魔術師にも作れると言うのかね?」
「材料として同じような骨を用意すれば、大丈夫じゃないかと」
「……新鮮な魔獣の骨をか?」
「もう素材を探す時点で怪しいわよね……」
「討伐に随行してりゃ、不可能じゃねぇとは思うが……」
「熟練の生産系錬金術師が討伐に同行?」
「もしくは、クソ高ぇマジックバッグを持ち出すかだな」
げんなりした様子の一同を横目に見ながら、オーデル老人が纏めにかかる。
「……今はまだ表沙汰にせん方が良いじゃろう。とりあえずモニター役として『幸運の足音』諸君とナガラ君に渡して、残りはアドンに預けておいてはどうじゃね?」
「……はい。それで、えぇと……オーデルさんとドナには?」
「ユーリ君のご厚意はありがたいが、村の衆が目を付けて騒ぐじゃろう。儂らは後で充分じゃよ」
「あ、はい。それじゃあ、そうします」
どうにか一件落着したところで、魔術師であるカトラが溜息を漏らす。
「やっぱり……独りで引き籠もってて、常識とか基本とかを知らなかったのが原因かしら」
「しかし、そのお蔭で我々が石器とか甲骨器とかを得る事ができたと考えれば……強ち悪いとばかりも言えないのではないか?」
面倒事から守るためにも、ユーリの行動には常に目を配っておく必要がある。そう決意を新たにする一同であった。