第三章 明日のために 5.衣料まわりの改善のために
「衣食住の住、食、ときて、次は衣、かぁ……」
ユーリが現在着ているのは、転生時以来着用している粗末な衣服の上下である。泣いても笑ってもこれ一着の、着た切り雀で替えは無い。
「いくら生活魔法の【浄化】があるといっても……やっぱり着替えくらい欲しいよね……」
村の中に使えそうなものは、布一枚、糸一切れも残っていなかった。となると、繊維から集めるしか無いわけだが……
「イノシシの毛皮はあるけど……鞣し方とか知らないしなぁ……【田舎暮らし指南】師匠に教えてもらうか。ま、それは後にして……」
【収納】に仕舞っておけば品質が劣化する事は無い。鞣すにしても、ある程度皮が溜まってから、一気にやった方が面倒が無い気がする。
「やっぱり、毛皮以外の選択肢も欲しいよなぁ……」
毛皮は冬には好さそうだが、夏は暑苦しいだろう。今着ている服は、生地的には夏には向いているかもしれないが、半袖の衣服も欲しいところだ。
「これって植物繊維かな? ま、これも村の外に出た時、使えそうな素材を探すしか無いよね」
樹皮か蔓か、それとも麻のような草になるのかは判らないが、外に出た時に【鑑定】を使いまくって、素材を探すしか無いだろう。どうせ大量に必要になる筈だ。場合によっては村内に移植しても……
「……あれ? 先住の人たちはどうしてたのかな? ひょっとして……植えていたのがある?」
食糧の事ばかり考えていたが、繊維植物を栽培していた可能性も無くはない。ここが岩塩坑のための村であった事を考えると、衣類などは岩塩を届けた時に入手していたのかもしれないが、一応探してみても損は無い。と言うか、雑草雑木と思って引き抜いたのが、繊維用に栽培していた植物だと判ったら、悲しいではないか。
「……あれ? という事は、紙の原料も栽培している可能性も……いや、さすがにそこまでは無いか……?」
とは言え、これも一応は探してみた方が好さそうな気がする。
「あ……麦を栽培していたんだから、麦藁は充分あった筈だよね。ちょっとした道具程度は、藁で作っていたのかな?」
藁は結構暖かい筈だ。袋に詰めてベッド代わりにしていた可能性もあるし、藁縄や雪沓のようなものも作っていたかもしれない。
「けど……現在のところ藁は無いわけだし……山で代用品を探すしか無いか。……縄とか紐はあった方が好いような気がするし……」
当座は蔓か何かで代用するしかないだろうが、繊維が得られたら縄を綯う事も考えるべきだろう。
「あ……動物の腱って、結構丈夫だとか聞いた憶えがあるんだけど……昨日のイノシシ、使えないかな……」
植物性の縄ほどには使い勝手は好くないだろうが、代用品の当てがあるに越した事は無い。
探せば使える糸を出す昆虫やクモもいるかもしれないが、そういうのは所謂絹糸になる。細過ぎて初心者には扱えないだろう。
「結局、どれもこれも繊維植物あっての話になるかぁ……いや、待てよ?」
ユーリがふと思い出したのは蓑である。あれなら草を乾かして束ねただけだ……少なくともそう見える。糸だの繊維だのは必要無いから、手軽にできるのではないだろうか。
「ただ……雨の中を態々外に出る必要があるのかって事なんだけど……その時になって雨具が無かったじゃ困るし……やっぱり準備しておくか」
いずれ茅とか菅のようなものが手に入ったら、笠を作るのも好いだろう。異世界で和風の蓑笠姿、ミスマッチかもしれないが、それはそれで心が躍る。
「まぁ、作業にだって楽しめる要素は欲しいよね」