第四十九章 名剣らしい~第二幕~ 2.アドン参戦
「この……カタナってやつの動きに馴染んでるんでなけりゃ、別の武器を勧めるところなんだが……」
「でも、僕が短剣を使うと暗殺者っぽいから止めておけって言ったのは、クドルさんじゃないですか」
「そうなんだよなぁ……」
昨年の旅で、野盗を仕留めたユーリの手並みは目にしている。鮮やかな腕前ではあったが、あまりにも鮮やか過ぎて、そっち側の人間ではないかと疑われる可能性があったのだ。何より彼により、ユーリの暗殺……もとい、短剣術は【隠身】が前提であり、それを隠すように進言した時点で、自動的に短剣術の秘匿も決定したわけである。
「どうせなら、見せかけだけじゃなくて実際に使える武器の方が良いですし。そうすると、弓とかじゃ微妙なんですよね……ウチの近所に出る魔獣が相手だと……」
「あ~……」
「何しろ塩辛山だからなぁ……」
「ギャンビットグリズリーとかスラストボアが相手だと、弓はきついわよねぇ……」
弓使いのダリアまでが同意を表するに至って、弓矢という選択肢が外される。
「槍とかは林内だと取り回しが難しそうですし、第一、僕には使えませんよ」
「普通、子供が使う武器じゃねぇよなぁ……」
「かと言って、手斧とかウォーハンマーとかポールアックスなんて、ますます僕には使えませんし、第一、悪目立ちするでしょう?」
「まぁ……さすがにそんなものを勧める気は無いが……」
いや、普通の直剣を選べばいいだけの話ではないのか?
「それも考えたんですけど……あの手の剣って、体重を乗せて腕力で叩き斬るみたいなところがあるでしょう? 僕みたいに非力な子供には向かない気がして」
「あぁ……確かに……」
「使えなくはないが、威力は落ちるわな」
「……待て。という事はユーリ、その……カタナってやつは違うのか?」
「叩き斬るような使い方もできますけど、どちらかと言えば包丁のように引き斬るんですよ。ただ、それが上手くできないから、クドルさんに教わろうと思ってたんですけど……」
「いや、俺の剣術とは技術体系からして違いそうだからな。無理だと思うぞ?」
「ギルドで片手剣の使い方を教わるくらいじゃないか? 現実的にできそうなのは」
「そうだな……そんなところだろうな」
「それでも、間合いとか体捌きの稽古にはなるからな」
「そうですね……その方向で考えてみます」
……と、そういう風に話が纏まりそうだったところへ、ひょっこりと顔を出したのがアドンである。
「熱心に何を話していたのかね?」
「あ、アドンさん」
「いや、大した事じゃないんですがね……」
アドンもユーリの事情を知っている、言うなれば同じ一味である。なのでクドルたちにしても、事情を話すのに躊躇いは無い。
「なるほど。……そう言えばうちの護衛の中に、曲剣を使う者がいたな……」
ポロリとそんな事を漏らしたから、ユーリは俄に色めき立った。聞けばかなりの老齢なので、普段は若い護衛たちへの指導を受け持っているという。
「アドンさん、その人の教えを受ける事はできませんか?」
「無論、問題無いとも。屋敷に着き次第、引き合わせてあげよう。……しかし、ユーリ君の国のカタナというのは、彼が使う曲剣とも違うようだが?」
百聞は一見に如かずと、実物の刀を取り出すユーリ。
「ふぅむ……確かに変わった剣だ。ユーリ君の言うとおりなら、腕力はそれほど要らないのだったね?」
「腕力はともかく、腕前の方は必要なんだと思います。僕にはどちらも欠けてますけど」
斑刃刀での試し切りの時に、腕ほどの丸太を手応えも無く両断した事は伏せておく。――大丈夫、これは普通の鉄刀だから。
「しかし……鑑定によればこれも『魔』製鉄器なのだろう? 魔力を通すと切れ味が上がったりしないのかね? あるいは、エルフたちにも問題無く使えるとか?」
ユーリが突いて欲しくない点を、さらりとピンポイントに抉ってくる商人。
……そうなのだ。斑刃刀でなかろうと、特殊鋼を使ってなかろうと、これが『魔製鉄器』なのは隠しようの無い事実。普通の鉄より強靱な事も、魔力を通すと切れ味や剛性・靱性が更に増す事も、紛れもない事実であった。
ゆえに、その事に気付いたハーフエルフの反応は……