第四十九章 名剣らしい~第二幕~ 1.クドルの助言
「いや、剣術と一口に言ってもなあ……」
護身用の武器は作ったものの、肝心の使い方については――一応前世の記憶程度はあるが――素人である。その辺りはクドルにでも聞けばいいかと軽く考えていたユーリであったが、エンド村で再会したクドル――アドンの護衛として同行していた――に、出発前にその事を相談したところ、そう簡単なものではないらしい。
「一括りに剣術と言うけどな、片手剣と両手剣じゃ使い方はまるで違う。片刃と両刃、曲剣と直剣でも違ってくるし、攻めを主体にするのか守りに重点を置くのか、剣だけで闘うのか、他の武器も併用するのか、盾は使うのか使わないのか……って具合にな。持ち方から構え方、間合いの取り方に至るまで違ってくるから、そう簡単にゃ答えられないんだよ」
「はぁ……」
「第一な、ユーリはあれだろ? 異国の生まれなんだろ? そうすると、普段の身のこなしとかが微妙に違ってて、この国の剣術じゃ違和感を覚えるかもしれんぞ?」
「はぁ……」
「初歩以前のアドバイスくらいならしてやれるけどな。こういうのはきちんと覚えた方が良い。ローレンセンの冒険者ギルドで、誰かに相談してみちゃどうだ?」
刀剣の使い方など、本質的な部分は共通だろうと高を括っていたユーリであったが、どうやらそう単純な話ではないようであった。
「そんな相談を持ちかけるところをみると、剣を買ったのか?」
「いえ……買ったんじゃなくて……」
「おい……まさか……造ったのか……?」
警戒心も露わなクドルの発言に、居合わせた全員が一斉に振り向く。問題児が自分で〝造った〟刀剣。……危険物の臭いがプンプンとする。
「いえ……そこまで物騒なものじゃ……」
「その判断は俺たちがする。いいから見せてみろ」
「そうよ、ユーリ君。君が造る魔道具なんて、軽々しく見せて廻るものじゃないわ」
軽々しく魔製石器の事を触れて廻ったカトラがそれを言うのは如何かと思うが、発言者はともかく発言内容は至当なものである。
「やっぱり石器なのか?」
「いえ……石器だとどうしても軽過ぎて……打ち合いとか鐔迫り合いには不利なような気がしたので、鉄で造りました」
ギルドで受けた初心者講習の賜物ですと胸を張るが、聞いている一同は微妙かつ疑わしそうな表情である。
彼らとてベテランの冒険者。ギルドの初心者講習が、文字どおり「初心者」向けの解説程度のものでしかない事など、誰よりも能く知っている。役に立つのは事実であるが、あれはそもそも自前で鍛冶をやるための講習ではない。武器のでき方造られ方を理解して、正しい使い方や手入れの方法を身につける一助とすべきものなのだ。
……どうせユーリの事だ。初心者講習で得た鍛冶の知識を元に、怪しげな土魔法か錬金術を駆使したに違いない。
「まぁ……いい。造り方はともかく、ユーリの武器がどういうものなのかを知るのが先だ」
面倒そうな事にはタッチしないと暗に宣言して、武器を見せるように促すクドル。
「はい。これです」
と、そう言ってユーリがマジックバッグから――その実は【収納】から――取り出したのは、何の変哲も無い――註.ユーリ視点――鉄で造った刀であった。
先日うっかりと特殊鋼で作製した斑刃刀は、さすがに出しては拙いと判断するだけの良識はあった。なので、あの後に普通の鉄で造った「刀」を取り出して見せたのだが……
「……おい……案の定、『魔製鉄器』ってなってるんだが……」
疲れたようなクドルの呟きにピクリと反応するハーフエルフの二人。そして、あぁやっぱりと言いたげな眼を向ける壁役と斥候。
「……まぁ、そこは大人の対応でスルーして戴くとして……」
「そうだな……一々騒いでちゃ身が保たん……」
しかし……と、言いながらクドルは刀を鞘から抜き放つ。やや反りのある片刃の剣。刃渡りは約六十センチくらいか。クドルが見慣れている剣からすると短めと言える。サイズと重量からすると片手剣のようにも思えるが、柄の長さを見ると両手遣いを考えているようだ。見慣れない形式だが、それなりに洗練されたものを感じる。
「変わった剣だが……ユーリの故郷の剣なのか?」
「はい。刀って言います。一応両手で扱うんですけど」
「そのようだが……しかし……こういう特殊な武器だと、ギルドにも指導できるやつがいるかどうか判らんぞ?」
「え? そうなんですか?」
「両手で使う片刃の曲剣なんて珍しいからな」
そう言えばそうかな――と、ユーリも合点する。前世の地球にも、アラブの三日月刀や海賊のカットラスなどの曲刀はあったが、どれも片手遣いであったような気がする。刀と言えば日本刀というのが当たり前だったから気付かなかったが、両手遣いを前提にした片刃の曲刀というのは、少なくともヨーロッパではあまり見られない形式だったような……
――実は、この世界の剣に直剣が多いのは、魔獣の存在もその一因となっている。堅固な魔獣の皮膚を打ち破るのには、勢いを付けて叩き斬るのが最適と考えられたからである。ともあれ、そういう経緯で剣と剣術が発達したこの世界においては、日本刀のように引き斬るタイプの、ある意味で対人戦特化の武器は珍しいのであった。