第三章 明日のために 4.食糧事情の改善のために~年次計画の検討~
水路の件が一応片付いたところで、残っている案件はと言うと……
・作物の収穫
・種籾や種芋の確保と保管
・畑の復元
・農業カレンダーの作成
・来年に向けての植え付けとその準備
・肥料の用意
・農機具の準備
「う~ん……もう穫り頃になっているのは収穫しておくとしても……一部は種芋や種籾用に残しておく必要があるよね。それで、収穫を終えた場所から耕して、畑として使えるようにしないと……あ、来年用に種を蒔いたり植え付けたりする時期も確認しておかないと……あ~……やっぱり作業カレンダーが必要だよ」
半野生化した作物が収穫できるのは好いのだが、現状それらは村のあちこちに散らばっており、種類ごとに纏まってはいない。作業効率を考えると、同じ作物は一ヵ所に纏めておいた方が手間が無い。
ただ……今現在まだ成育中のものもかなりあるため、村内の畑を一気に整備する事ができない。全ての収穫を終えた後に土魔法で一気に耕す手もあるが……
「そうすると、植え付け時期を逃しそうなのがあるからなぁ……」
確か秋蒔き小麦などは九月か十月に種を蒔いたような気がするが、まだその頃には収穫が終わっていない作物もある筈だ。しかも、現状それらが入り交じって生えているので、一気に耕すような真似はできそうにない。
「収穫が終わった場所から、ちまちま耕すしか無いかぁ……」
いずれにせよ、各作物について収穫や植え付けの時期を調べて、農事カレンダーのようなものを作っておいた方が間違いが無い。紙が無いので石版になるが。
「作物だけでなく、木の実や山芋みたいなものもあるしなぁ……」
恐らくだが畑の作物だけでは、冬越しに必要なだけの食糧を賄う事はできない。獣の肉は勿論だが、山で採れる木の実や芋類も必要不可欠になる筈だ。マッダーボアを狩った時に幾つか目星は付けておいたが、今後も頻繁に村の外へ出て、食べられるものが無いかどうかチェックする必要がある。
「……となると……武器が必要になるのかぁ……」
先日のマッダーボアは、気配を隠して接近し、剣鉈で仕留めたわけだが……
「あんな危ない真似ばかりしてられないよね……幸い、あのイノシシは見かけ倒しで助かったけど……」
自分はこの辺りでは最底辺のランクに位置する。自分より強い危険な生き物など幾らでもいる筈だ。そんなのに一々近寄って仕留めるなど、狂気の沙汰だ。少しでも離れた位置から仕留める事ができるように、魔法を鍛えるとともに、長柄の武器を用意する必要がある……
――相変わらず自分は弱いと確信しているユーリであったが……真相は、違う。
神の恩寵――と言うか、過剰なまでの心配り――によって、ユーリの魔力や身体能力はこの国の冒険者や兵士のレベルを軽く上回っており、そこらの魔獣など余裕で蹴散らせるレベルにある。
ただ、ユーリ本人がそれに気付いていないため、過度に心配しているわけなのだが……まぁ、万一に備えておく事は悪い事ではない……ない筈だ。
「武器の事は後で考えるとして……とにかく、冬越しに必要なだけの食糧を集める事が最優先……あ、冬用の衣服とか布団とかも必要か……まぁ、これも後で考えよう」
色々と考えるべき事が増えてくるが、とりあえず今は食糧計画である。
「……畑の作物だけじゃ栄養的にも偏るし……副菜として山菜も確保する必要があるよね。丁度今が山菜の旬だから、採れるだけ採っておこうか。保存は【収納】で何とかなりそうだし……」
――と、当面の計画を立てたところで、
「あとは……農具も作っておく必要があるかな? 耕すのは土魔法でできるだろうから、鋤や鍬は要らないとしても……収穫用に鎌や千歯――または千把扱き――はあった方が便利かな? この世界にあるかどうかは知らないけど、どうせ誰も見ていないんだから、気にする事無いか」
さっくりと千歯の作成を決める。どんなものかは大体知っているし、細かなところは【田舎暮らし指南】師匠に訊けば、土魔法で作る事ができるだろう。
「他には……肥料の事があるか……」
今年の分に間に合うかどうかは微妙……と言うか、十中八九間に合わないだろうが、先々の事を考えるなら、これも早めに着手しておく必要がある。畑の整備などで引き抜いた雑草雑木を積み重ねて、堆肥を用意するくらいならできそうだ。
「結構色々あるんだなぁ……まぁ、できる事からやっておくか」