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第四十八章 エンド村 5.魔製石器~使用者の声~(その1)

 双方の認識の食い違いから悲鳴と怒号が飛び交う展開はあったものの、一応無事に「素材」のチェックが終わった。……憔悴しきった様子でへたり込んでいる者の事など、気にしてはいけない。


 ややあって――気力を振り絞る感じで――再起動したアドンがユーリに伝えたのは――



「……え? そんなに大事(おおごと)になってるんですか?」



 ――魔製石器を取り巻く現状であった。



・・・・・・・・



 去年ユーリがローレンセンを発ってからの出来事を、時系列に沿って(まと)めるとこういう事になる。


 最初に動いたのはアドンであった。ユーリの帰郷と(あい)前後して土魔法使いの確保に動き、そしてフリーの土魔法使いが少ない――と言うか、ほぼいない――という現実に、その動きを阻まれた事については既に述べた。

 問題は、()(みつ)()に動いたにも(かか)わらず、アドンが土魔法使いを捜しているという事自体は隠しようがなかった事である。これが第一。


 二つめの(ほころ)びは「幸運の足音」が――本人たちの気付かぬところで――生み出した。ユーリから貰った魔製石器をご機嫌で使っているところが、何度か目撃されていたのである。特に、ハーフエルフで刃物の装備が厳しい筈のカトラとダリアが嬉々として短剣を使っていれば、これは他の冒険者たちの、そして魔道具に関心を持つ者たちの興味を引かないわけが無い。正面切って訊ねてくる者はいなかったが、否、訊ねてくる者がいなかったからこそ、この情報は「幸運の足音」の気付かぬうちに(ひそ)やかに広まっていった。これが第二。


 次の動きはその約二ヶ月後、カトラとダリアからの報せを受け取ったエルフたちの村で起きた。

 深い事情を忖度(そんたく)しなかったカトラとダリアからの報せを受けたエルフたちは、これまた深く考えもせず、この情報を他のエルフの村に拡散したのであった。その結果、何やら凄くありがたい石器――一部では〝幻の石剣〟などという言い方をされていたそうである――があるらしいという、あやふやで曖昧な噂だけが、エルフたちの間に広まる事になった。この時点では誰一人として、魔製石器の製造がそれほど大変なものであるとは思ってもいなかったのである。これが第三。


 そして、ユーリを訪ねてローレンセンに辿(たど)()いたエルフのナガラが、既に塩辛山へ帰郷していたユーリの代わりに、この件でユーリの代理人を務めるアドンに紹介された事。年の瀬も押し詰まった十二月初頭に単身山を下りてローレンセンにやって来たエルフが、ハーフエルフの女性二人に伴われて有力商人の家を訪れたりすれば……そりゃ人目を引くに決まっている。(いわ)んや、そのエルフが後日アドンの護衛についたりすれば猶更(なおさら)である。これが第四。


 アドンから事情を聞いて魔製石器の入手が思いの(ほか)困難と知ったナガラは、事の仔細を通信の魔道具で村へ連絡した。連絡を受けた村ではナガラ以上に事態を重視。魔製石器の安定供給のために、ローレンセンに護衛を派遣するべきではないかとの声が上がった。さすがに時季が遅いため即座にという話にはならなかったものの、この話は一村で決めていいようなものではないという事になり、魔製石器の事を知る他のエルフ村にも話がいった。結局、雪融けを待って各村――この時点で総計四つのエルフ村が参加――から一名ずつの護衛を派遣する事に――ユーリやアドンの知らぬところで――話が(まと)まる。

 ナガラを介してこの話を打診されたアドンは、魔製石器の販路確保とエルフとの交易ルートの確立を見据えて即座に話を了承。魔製石器の需要が高まる事を考慮して、魔力を馴染ませる前の半完成品を供給する事を検討。ユーリに会い次第相談――実際には事後承諾を求めるだけ――する事を決めた。これが第五。


 更に、冬の間にアドンが有力者を招いて出した料理が評判になるにつれ、金気臭さの残らない庖丁の噂がどこからともなく広がるようになった。これが第六。



・・・・・・・・



 そして、これら諸々の話が密かに収束していった結果……



「……詳細までは判明していないにしろ、アドンさんが何やら曰く付きの道具に関わっている事、そしてそれにエルフの方々が食い付いている事までは特定された――と?」

「そういう事だね。商人としての視点では必ずしも悪い展開ではないが……現状ユーリ君の事は秘匿できているとは言え、いつまで守り通せるかまでは自信が無い。その前に……」

「……生産と流通の流れを確立しておきたい――と?」

「そうなんだが……協力してもらえるだろうか?」

「それは勿論。元はと言えば僕が蒔いた種を、アドンさんに刈り取ってもらっているわけですから」



 協力は惜しみませんよと言うユーリの答を聞いて、アドンは胸を撫で下ろした。ここでユーリの機嫌を損ねでもしたら、全てが御破(ごわ)(さん)になるところである。



「……助かったよ。そこで相談なのだがね」



 アドンはエルフたちの事情を聞いてから温めていた腹案、完成品だけではなく魔力を馴染ませる前の半完成品の石器を販売してはどうかという案を提示する。



「……なるほど……確かにそれだとネックの一つがクリアできますね。高くは売れない代わりに手間が省け、品質保証も限定的でいい……顧客側の需要さえあれば、僕としては異存はありませんね」

「ふむ……それで、価格の方なんだが……?」

「それは僕には判りませんから、アドンさんに一任します。ただ、エルフの方々が買えないような価格は……」

「無論その点は承知している。それに、魔力に優れるエルフなら、半完成品を購入するという手も使えるわけだからね」

「確かに。すると……価格を決めるのは生産性と人件費ですか。原料はそこらの土なんですから」

「うむ……こればっかりは、マガム先生のお弟子の力量が判らない事にはね……」

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― 新着の感想 ―
[一言] ハーフエルフたちの短慮さで引き起こされた状況に対してとか、もっとこう考えるべきことあるよねって気が。
[一言] 結局、アドンとハーフエルフ二人組がしくじりまくって、主人公に迷惑かけてるだけだよね。 そもそも、主人公に迷惑かけないために、製法教えて販売も容認したんじゃないの? 壁にもならないどころか、…
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