第四十八章 エンド村 3.アドン来村
ユーリがエンド村を訪れた翌日、「幸運の足音」に護衛されたアドンが村を訪れた。
「アドンさん、それに皆さん、お久しぶりです」
「おぉユーリ君、元気そうで何よりだ。変わった事は……きっとあるのだろうね?」
「あはは……」
絶対何かやらかしている筈と確信したアドンの口ぶりに、ユーリとしては乾いた笑いで答えるしかない。顧みればこの半年だけで、パーティクルボードだの突撃銃だの人工魔石だの魔製骨器だの魔製鉄器だの突然変異だの……表沙汰にしづらい事をあれこれ色々散々に、これでもかというほどやらかしているのだ。豆腐作りなど可愛いものである。
そして、そんな乾いた笑い声を聞いて、あぁやっぱり何かしでかしたな――と、確信を新たにするアドンたち。そして……そこまでは想定内であるが、やらかした事はきっと想定外に違いない……と、想定している一同であった。
「まぁ……心臓に悪そうだから、この場で追及するのは止めておくが……」
「少なくともユーリ君、私たちに相談無く、それらを表沙汰にするのだけは止めてくれたまえよ?」
どこか遠い目をしてユーリを窘めるアドンとクドルを見て、申し訳無いという思いに囚われるユーリ。だからといって、技術革新を自重するつもりはこれっぽっちも無いのであるが。
「……それで、クドルさん、パーティメンバーを増員されたんですか?」
ユーリがチラリと視線を向けたのは、クドルたちの後ろに控えている、若いエルフの男であった。
「あぁ、いや、彼は俺たちの仲間ってわけじゃなくってな……」
「私から説明しよう。彼はカトラ嬢やダリア嬢と同じ村出身のエルフでね、ナガラという。目下は私の護衛といったところだ」
仔細が解らずキョトンとした顔のユーリに向かって、アドンがこれまでの経緯を説明していく。ナガラから聞いたエルフの村の熱狂ぶりについて説明したところで、ユーリがうわぁという感じで引いていた。カトラやダリアから聞いて薄々察しは付けていたが、まさかそこまでの食い付きっぷりだとは思わなかったのである。
一方でナガラの方は、初めてユーリに対面するというので、柄にも無く緊張しっ放しであった。何しろ、エルフ垂涎の魔製石器の製作者である。失礼があってはならないし、万が一にも機嫌を損ねるような真似をしてはならない。後ろに控えるカトラとダリアの無言の圧力も然る事ながら、故郷の村から背負わされた期待と任務の重さに押し潰されそうな気がしていた。
それに加えて――遠くに見える塩辛山から漂って来る気配が、また不穏当なものであった。ナガラたちが住まう村も山の奥にあり、魔獣もそれなりの数が棲息しているが、ここ塩辛山もそれに勝るとも劣らぬ魔獣の気配を漂わせているのである。
ユーリ本人と対面した事で、ナガラの不安と困惑は更に掻き立てられる事になった。あの塩辛山に独りで引き籠もっているというからには如何ほどの剛の者かと思ってみれば、紹介されたのはまだ幼さの残る少年であった。
ナガラとて長命と魔力を誇るエルフの一員である。見かけが当てにならない事も、見かけの代わりに魔力の強弱をもって相手の力量を判別する術も、それなりに心得ているつもりであった。
しかし――今回ばかりはその技術が全く役に立たなかった。何と言うか……魔力が大きいようなそうでもないような、あやふやで不明瞭な印象しか得られず、掴み所が無く不気味な感じしかしなかったのだ。神から貰ったユニークスキルの【ステータスボード】で、ステータスを偽装しているために起きた事態であったが、神ならぬ身のナガラにはそんな裏事情は解らない。緊張と不安から来るストレスに苛まれる事になっていた。
その結果どうなったかと言うと……ユーリに紹介されたナガラは、それまでの緊張と不安の反動から、エルフたちが如何に魔製石器を待望しているかについて、怒濤の勢いで話し、訴え、力説し……結果としてユーリをドン引きさせた科で、一同から大目玉を喰らう事になったのであった。
死霊術師シリーズの新作「震える指」、明日21時に公開の予定です。宜しければご覧下さい。