第四十七章 根菜譚 3.カブ類の利用法
ローレンセンからユーリが持ち帰った作物のうち、甜菜については幾つかの切片を組織培養に廻したが、一部は木魔法で復活できたので、それはそのまま植え付けに廻した。恒温室で栽培して、種子を採るのに成功している。春には培養したクローン苗の他に、種子からも栽培するつもりだ。
その他のカブ類については基本的に試食に廻したのだが……
「う~ん……エトの言ったとおり、あんまり美味いものが無いな。所詮は家畜の餌って事なのかな」
生食から始めて、食感を軟らかくするために繊維と直交する向きに切ったり、煮たり蒸したりと色々試してはみたのだが、肝心の味が芳しくない。以前に村落跡地で見つけたカブ――こちらの言い方ではスズナ――は充分に美味しかったのだが、やはりあれは食用に改良された品種であったらしい。前世の日本で食べたものと較べても遜色の無い味わいであった。
対して今回持ち帰ったカブ類のほとんどは妙な青臭さやえぐみがあって、お世辞にも美味いとは言えなかったのだが――それでも幾つか掘り出しものがあった。
「これって……カブというより大根だよね、この辛み」
最初に引き当てたのは、辛味のある種類だった。蕪と大根の違いなどユーリには判らない――桜島大根のように丸っこい大根もあるので、形では区別できなかった筈だ――が、スズナより歯応えのある食感といい、すり下ろした時に強く感じる辛みといい、前世の大根に近い種類のような気がする。
「大根おろしの代わりに使えそうだな。少し繊維質が多いみたいだけど、すりおろせば気にならないレベルだよね」
醤油こそ未だ完成を見ていないが、このカブだか大根だかなら、肉醤の臭みを消すのにも使えそうだ。これは良いものを手に入れたとほくそ笑んだが、それはさておいて残りの試食を片付ける事にした。
一通り試食を終えた結果、大根おろし用に先程選んだもの以外に、取り立てて見るべき味わいのものは無かった。なので次は【鑑定】によって、各品種の性質を曝く事にする。その結果……
「へぇ……これは種子に辛味成分を含んでいるのか……芥子菜みたいな感じなのかな」
前世地球のカラシナもダイコンやカブと同じアブラナ科の作物であったが、この世界でもスズナの中に、そういう系統のものがあるようだ。選抜育種を続けていけば、そのうち品種として確立するかもしれない。
「けど、【鑑定】してみても、どれもこれも《スズナの一種》としか表示されないんだよなぁ……。品種として認識されていないって事なんだろうけど……勿体無い話だなぁ……」
ともあれ、香辛料として利用できそうなものを、あたら家畜の餌にしておく事は無い。これも組織培養に廻す事にする。
最後に見つけたのは、根部はさして肥大しないものの、地上部の成長が頗る立派な系統であった。前世地球で言えば白菜と似たようなものだろう。あれもやはりアブラナ科だった筈だ。少々辛味があるものの、これはこれで葉野菜として使えそうだ。いや、漬物にするには寧ろ打って付けかもしれない。
「家畜の餌って言ってたけど……思ったより使えそうなものがあったなぁ。……これって、作物の選抜育種がまだ進んでないって事なのか?」
隣国で栽培されていたジャガイモ――こちらの世界ではパパス芋――の事が、この国では知られていなかったりと、作物の情報は思ったより拡散していない。品種改良や選抜育種という概念が無いか、もしくは遅れているのだろうか。
「まぁ、その辺りは他にも事情があるのかもしれないし……とりあえず僕としては、甜菜の他にこの三種類ほどを作物化しておけばいいか」
これが昨年十一月半ばの事であった。
そして……