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第四十七章 根菜譚 2.組織培養(その2)

 ()くの(ごと)く組織培養の実験は(つつが)()く進んではいるのだが、培養中のカルスを移植可能な苗にまで育てるのにはまだ時間がかかるのも事実である。



「けど……実験室に残していくと多分枯れちゃうだろうし……ガラス容器に移して密封しておけば……駄目だな。確証が持てない」



 ミクロコスモスとでも言うのか、ガラス容器に植物と魚を入れて密封したものが出回っていた記憶はあるが、同じようにしてカルスを保存できるかどうかは疑わしい。いや、それ以前に、留守の間も実験室の恒温装置を動かしておくかどうかも踏ん切りが付かない。万一火事でも起きた日には、 村全体が焼け落ちるだろう。そんな危険は冒せない。



「……やっぱり恒温室は閉じておくしかないよね。だからカルスを残しておくのも無理。となると、やっぱり【収納】しておくしかないか」



 気配り上手の神の厚意で、ユーリの【収納】には「チルド設定」のオプションが付いており、生物を仮死状態にして保管しておく事が可能になっている。実験自体は中断するが、カルスをそこに【収納】しておけば、安全に保管しておく事はできる。



「少し植え付けるのが遅くなるかもしれないけど……枯らすよりはマシか」



 ――という次第で、培養中のカルスは【収納】に保管される事が決定した。



 ちなみにユーリが組織培養に成功したのは、前述の甜菜(てんさい)とカブ類の他に、ローレンセンで買い求めてきた果実の類である。一応種子は取り分けてあるが、発芽・成長が上手くいくかどうかは予断を許さないので、組織培養によるクローニングも併せて行なう事にしたのである。

 クローニングを試行したのにはもう一つの思惑がある。果実の種子を()いて発芽しても、同じように美味い実を着けるとは限らない。しかし、果肉を組織培養できれば、確実に同じ味わいの実を着ける同じクローンが得られるのではないか。気温や施肥などの条件はあるが、市販の果実と同じように美味い実が得られる可能性は高まるのである。



「……けど、ドライフルーツや干した薬草、それに()(しょう)は失敗したんだよなぁ……」



 この世界でも香辛料は高価である。()(しょう)の栽培に成功したら大儲けできたのだろうが、そうは問屋が卸さなかったのだ。



「まぁ、今回は黒胡椒、それも古そうなものしか見つからなかったしね」



 ユーリも【鑑定】の説明文を読んで初めて知ったのだが、胡椒の種子というのは極めて発芽しにくいものらしく、繁殖は挿し木によるのが一般的らしい。こちらの世界の胡椒もそうだとは断言できないが、今までのところ地球のそれと似た作物は性質なども似ているから、この世界の胡椒も発芽しにくい可能性はある。しかも、黒胡椒というのは熟する前の種子を乾燥させたものらしく、完熟種子を乾燥させた後に外皮を除去すると白胡椒になるらしい。ちなみに、外皮を剥がさずにそのまま乾燥させると赤胡椒と言われるものになる。なので、もし発芽するとしてもそれは白胡椒か赤胡椒であって、熟す前の黒胡椒ではないと考えられた。



「それに何より、収穫後にきっちり乾燥させてあるからね。種子が死んじゃってる可能性も高いから、ただ播いただけじゃ発芽しないだろうな。木魔法と……多分だけど、闇魔法なんかも使わないと駄目じゃないかな……」



 一人ぶつぶつと(つぶや)くユーリであった。だが胡椒の話はこれくらいにして、ユーリが持ち帰った甜菜(てんさい)とカブ類はどうなったのか。そちらに目を向けてみよう。


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