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第四十五章 魔製石器~波紋~ 1.アドン(その1)

 話は昨年の九月に遡る。


 魔製石器の委託製造および販売の全権をユーリから委任されたアドンは、迅速に活動を開始した。


 「幸運の足音」のハーフエルフ二人、カトラとダリアを訊問……詳しい事情を訊いた結果から、アドンはまだ少し時間の余裕があると判断した。二人が手紙を送ったエルフたちの村はここからかなり離れている上、郵便などという制度が無いため、手紙は行商人などに託して運ばれるのが普通であった。ゆえに、肝心の手紙が届くまでに一月(ひとつき)二月(ふたつき)はかかるだろうと踏んだのである。


 ならば……今のうちなら、騒ぎになる前に動き出す事が可能だ。


 しばしの熟慮の後でアドンが選んだ方針は――



「土魔法使いの採用でございますか」

「うむ。ユーリ君が言うには、あのナイフを造り上げるには土魔法が必須との事だ。ならばいっその事、当家で雇ってしまった方が面倒があるまい」

「それはそうでございますが……」

「うん? 何か問題があるというのか? ヘルマン」

「いえ……問題と言うほどではございませんが……」

「だが、何だ?」

「土魔法使いだという者に、あまり会った事がございませんもので……」



 自信無げなヘルマンのカミングアウトを聞いて、そういえば……と、自分でも(いささ)か不安になるアドン。しかし、殊更(ことさら)に土魔法が稀少だと聞いた憶えは無いのだから、探せばそれなりに見つかる筈だ。


 ……楽観的な予定が根底から(くつがえ)った事を知るのは、その翌日である。



「……いない?」

「はぁ……手前も存じませんでしたが……何でも土魔法というのは、少なくとも冒険者たちには人気の無い属性との事でして。土魔法の素養がある者も、早いうちに見切りを付けて、別のスキルに鞍替えする者が多いのだとか……」

「何という事だ……」



 この世界では、食うに困れば冒険者――という風潮が定着しており、魔法の素養を持つ者も、多くが冒険者稼業に流れていた。

 しかし、そんな冒険者たちにとっても使い勝手の好い魔法というのはあるもので、攻撃に使える火魔法・風魔法や、水の補給に寄与する水魔法が人気であった。その反面、攻撃には今一つ使いづらい木魔法と土魔法は、(いささ)か割を食う格好になっていた。



「土魔法は、レベルが上がれば拠点の建築などに貢献できるそうですが……」

「駆け出しの魔術師にそこまでの能力は期待できず、冷や飯を食わされる事になったか……」

「冷や飯とまではいかないまでも、あまり人気のある属性ではなかったようで」



 人気の無い土魔法を見限って、別のスキルを伸ばそうとする者が多いのだという。



「熟練者はこの限りではないようですが、そういう熟練の土魔法使いは、既に何らかの職に就いておりまして……」



 拠点構築の能力を買われて騎士団などの軍関係に、あるいは採掘の能力を買われて鉱山関係に雇われる者が多く、鍛冶関係の職に就いた者もいるそうだ。



「……無理矢理引き抜くのは、下策か……」

「雇い主との関係が悪化するだけでなく、要らざる注目を集める事になるかと。付け加えますと、拠点構築の能力は今回の仕事には無関係で、鉱山で職に就いている者は、魔力にものを言わせて強引に岩盤を破砕している者が多いと聞きます」

「どちらにしても、使えそうな気がしないな……」

()(よう)で……」



 要するに、フリーで有能な土魔法使いというのがいないのである。



「してみると……ユーリ君は地味に優秀だったのだな……」

「地味かどうかはともかく、優秀でいらしたのは確かかと」



 人材払底(じんざいふってい)という予想外の壁にぶちあたったアドンの判断は……



「……やむを得ん。マガム先生のお力をお借りしよう」

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