表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/312

第四十四章 名剣らしい~第一幕~ 3.特殊鋼

 ユーリの錬金術は(怪)の添え字付きであり、しかもまだまだ初級でしかない。素材の全てに珪素(シリコン)を添加してしまうと、万一使えないとなった場合に、珪素(シリコン)を除去して素材に戻すのが難しい……と言うか、現在のユーリのレベルでは不可能に近い。それを考えると、総特殊鋼造りにするのは()した方が賢明だろう。

 なら、鋼の一部だけを特殊鋼にして、それを使って刀を打つか?


 ここでユーリはある事を思い出す。確か日本刀は、軟らかい心鉄を硬い皮鉄で包んだ二重構造ではなかったか? それに(なら)って、普通の鋼を特殊鋼で包むようにして……



「……うん、面倒。――と言うか、僕の腕じゃできっこないよね」



 普通ならそのまま断念するところだろうが、この時ユーリは――幸か不幸か――もう一つの複合鋼材の事を思い出す。

 ――ダマスカス鋼と呼ばれた金属の事を。



「現在ダマスカス鋼って言われてるものは、正確にはかつてのダマスカス鋼を復元しようとした(まが)いもの――とか読んだ気がするけど……確かあれって、二種類の金属を練り合わせて作った積層鋼材の筈だよね……」



 正しいレシピは知らないが、どうせ最後には魔法頼みになるのだからと割り切って、珪素(シリコン)を添加したものとしないものの二種類の炭素鋼を練り合わせるユーリ。珪素(シリコン)を加えると強度はあがるが、反面で(もろ)くなるような気がしないでもない。ただしこちらの世界には魔法がある。前世地球の知識だけで判断するのは危険だろう。その辺りも踏まえての実験のつもりである。

 本来なら鍛造によって混ぜ合わせるのだが、そこは便利な魔法頼みだ。初歩とはいえ鍛冶と魔法の二つのスキルをそれなりに使いこなして、複合鋼材に仕立てていくユーリ。

 均質に混ぜ合わせて合金のようにするのは難しいが、ユーリもそこまで混ぜるつもりはない。確かダマスカス鋼というのは、二種類の鋼が木目のような模様をなしているのが特徴だった筈。なら、そういう模様になった時点で練り合わせを止めればいいだけだ。

 ……本来の造り方とは色々違っている気もするが、どうせ魔法を使う時点で怪しいのだと割り切って、思い切り良く造っていく。



「……こんな感じかな? あとは、前と同じように鋼板から打ち抜いて……」



 なまじ硬度が上がっていただけに苦戦したが、奮闘の末に日本刀っぽい刀が一振り出来上がった。


 刃を形成する際に、マルテンサイトのような硬質組織ができるように魔力を籠めていたら、体積変化の違いによってちゃんと反りが生じたのには感動した。日本刀の「反り」は最初から成形されたものだとユーリは思っていたのだが、そうではないと知ったのは【鑑定】先生の説明を読んでからである。それによると、焼き入れ時に塗る(やき)()(つち)の厚みの違いによって、急冷される「刃」と徐冷される「棟」で硬度と体積に違いが生じ、急冷組織のマルテンサイトが生じる刃側で体積が増すために、結果として反りが生じるらしい。

 ユーリは火入れなどという手順は踏まなかったが、刃の部分が硬化するように魔力を籠めていたら、結果的に同じ形状になったようだ。

 日本刀にしてはやや短めだが、これはユーリの体格で取り回せるようにしたためである。


 ……ちなみに〝日本刀っぽい(・・・・・・)〟と言ったのは文字どおりの意味で、【鑑定】の結果が「日本刀」に(あら)ざる事を明確に告げていたためである。


 ――《(まだら)()(とう):【錬金術(怪)】と【鍛冶(怪)】によって調製された複合鋼材を、魔力によって成形する事で造られた、特製の魔製鉄器。性質の異なる二種の特殊鋼が混ざり合っているため、高い硬度と靱性を併せ持つ。終始魔法によって造られたため、魔力、特に作刀者の魔力との親和性が高く、魔力を通す事でその能力は数倍に跳ね上がる。刃渡り一尺八寸五分(61cm)、中反りやや浅く、重ねやや薄い》



「……これって、もう……目立つなんてレベルじゃないよね……」



 あの魔製石器以上にヤバそうなものを創り上げてしまい、しばし呆然と(たたず)むユーリ。目立たず地味に引き籠もりたいのに、どうしてこういうものばかり出来てしまうのか。間違っても自分のせいではない……ない筈だ。



「……ま、まぁ、武器としての性能は悪くなさそうだし……ばれなきゃ大丈夫……きっと……」



 取り扱いには慎重さが求められそうだが、それより何より性能が問題である。普通なら試刀家に試し斬りでも依頼するのだろうが、生憎(あいにく)ここにいるのはユーリだけ。試し斬りが必要というなら、それはユーリがやるしかない。

 とりあえず【木材変形】で仮の柄を付けて、振り回してもすっぽ抜けないように固定する。



「……試し斬りなんてやった事無いんだけど……」



 それ以前に真剣を扱った事など――転生前の三十七年間を勘定に入れても――経験が無い。と言うか、そもそも真っ直ぐ振れるのかすら覚束(おぼつか)()い。


 ――なのに……なぜ日本刀など造ろうとしたのか。


 我が事ながら怪しくなってきたため、その場で軽く素振りをしてみる。生前は入院生活が長かったため、剣道の心得など欠片(かけら)も無いユーリであったが、反面で武術に対する興味だけはあったため、古流剣術などに関する本やDVDは目にしていた。それらの記憶と、転生に際して神による最適化を受けた身体機能、そして【対魔獣戦術】の刀剣スキルだけを頼りに振ってみたのだが……



「……何か……格好だけは(さま)になってる……のかな?」



 一人で首を(ひね)っていても(らち)が明かない。そう判断したユーリは、思い切り良く試し斬りに挑む事にした。材木を積んでいる小屋に行き、手頃な太さの枝を取り出す。その枝を差し渡す台を二つ土魔法で作り、渡した枝に向かって気合いとともに「刀」を振り下ろしたのだが……



「何か……あっさり斬れたんだけど……」



 日本刀の試しで言えば、「笹の露」とか「(かご)(つる)()」、あるいは「踊り佛」、はたまた「夢の(あわい)」などと形容されそうなくらい、手応えも無くスルリと刃が通った――通り抜けた――その事に、(かえ)ってショックを覚えるユーリ。


 ……コレ、絶対バレたらアカンやつや。



「切れ味と言うか……武器としては(もう)(ぶん)()いんだけど……」



 (もう)(ぶん)()さ過ぎる切れ味に、()(かつ)に表に出せない事と、普段使い用にただの鋼でもう一振りを(あつら)える必要がある事を、改めて認識するユーリであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面倒だからと、手間を省いて作るから、謎の物体ができるんだから、自分のせいだよね(゜_゜ )
[一言] >特製の魔製鉄器 また新たな磨製シリーズを生み出してしまったか。 材料づくりから作刀まで全部魔力で行えば、 金属武器でありながら、魔力との親和性が高くなるんだね。 エルフ達はこの知見に至ら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ