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第四十四章 名剣らしい~第一幕~ 2.日本刀?

 【鍛冶(怪) 見習い】で山刀(もど)きを造ってしまってからというもの、ユーリはしばらく鍛冶――鍛冶だよな?――から遠離(とおざか)っていた。

 それはユーリのナイーブな心が傷付いたため……などでは決してなく、単に他にするべき事が色々とあっただけである。


 しかし、年が明けて積雪も融け、ローレンセンを訪れる日が近づいてくると……ユーリは改めて自分の武装の貧弱さが気になりだした。

 昨年秋の旅行では、折良く持っていた解体ナイフ――フェアバーン・サイクス戦闘ナイフに酷似しているが、ユーリ的にはあくまで解体用――で野盗を始末する事ができたが、武器らしい武器を携行せずに旅に出たというのは如何(いかが)なものか。いくら護衛が付いていたとは言え、護身用の武器くらいは身に付けておくべきではなかったか。一応「自動小銃」のようなものは開発したが、あれはあれで表に出すわけにはいかない。怪しまれない――ここ重要――武器が必要だ。



「……と言ってもなぁ……普段持ち歩いているのも解体ナイフだし……」



 なぜか高確率で魔獣とエンカウントするユーリであるが、大抵の相手なら【隠身】スキルで身を隠して魔製石器で不意を()けば(たお)せるし、そうでない相手は魔法の遠距離攻撃で仕留めている。ただ、他の人間と一緒に旅する場合には……



「【隠身】スキルと、できたら魔法もあまり他人に見せるなって言われてるんだよなぁ……」



 【隠身】と魔法を使わないとなると、十二歳の子供(ユーリ)にできる事はほとんど無くなる。【対魔獣戦術】の人型魔獣用の戦闘スキルを使っても、身を守るのが精々だろう……と、ユーリは思っている。ローレンセンで当たり屋の破落戸(ごろつき)を〝壊した〟事は、既に忘却の彼方(かなた)らしい。

 念のために言っておくと、普通の十二歳は【対魔獣戦術】なんて物騒なスキルは持っていない。ともあれ、



「そうするとやっぱり……姿を現したまま戦う技術も必要って事だよね」



 ――普通はそうするものなのだが。



「なら、そのための武器を用意しないと駄目って事か」



 かかる常識的な判断の(もと)、ユーリはさっくりと鉄剣の製造を決める。



「好い機会だから鍛造の練習……って、山刀すら満足に打てなかった僕に、まともな鉄剣なんか打てるわけが無いよね」



 ――という()(ごく)(もっと)も理由で、正攻法の【鍛冶】スキルによって造る事をあっさり断念する。邪道だろうが何だろうが、とにかく鉄剣さえできればいいと、プレス加工で造る気満々である。


 ちなみに、魔製石器でなく鉄剣を造ろうとした理由は、打撃力を考えた場合には重さのある鉄製の方が有利と考えたから……ではなく、単純にユーリが〝刀剣は鉄〟と思い込んでいただけである。

 (もっと)も、仮に魔製石器の刀剣を造った場合は、軽過ぎて扱い辛かったであろう事は想像に(かた)くない。ただしそれは逆に、(りょ)(りょく)に劣る女子供や老人でも――引き斬るという日本刀の術理に慣れさえすれば――一人前に武器を振るえるという事なのだが。



「そうすると次は……どういう形にするかだよね」



 元・日本人としては、たとえ形だけでも日本刀にしたいところである。しかし問題は、はたしてこの世界に「刀」などというものが存在しているかどうか。もしも知られていなかったら、余計な注目を浴びる事になる。既に大概目立っているユーリであるが、いや、既に目立っているからこそ、武器まで目立つのは避けたいというのが本音だ。とは言え……



「西洋風の直剣だと、多分叩き斬るような使い方になるよね。……という事は、非力な僕には不向きって事だよね……」



 無闇に目立つのは本意ではないが、だからと言って肝心の戦闘力が低下するようでは本末転倒である。ここは多少目立つのを覚悟してでも、非力なりに使える「刀」を選択するべきではないか。



 ……賢明な読者諸氏はお解りだろうが、ここにはユーリが刀を使いこなせるかどうかという、ある意味最も重要な視点が抜け落ちている。仮にその点を()く――転生時に神が何やら〝最適化〟してくれたらしいし――としても、非力な子供が使うのであれば、より軽い魔製石器にするべきではないかという点は検討もされなかった。……つくづく思い込みとは怖いものだ。

 ついでに述べておくと、ユーリの身体能力は神によって底上げされているので、七歳の転生時で筋力は一般的な成人の倍ほどもあった。しかし、己は最弱と固く信じているユーリが、そんな事に気付く筈も無いのであった。



「……どうせ変な外人扱いされてるんだし、今更だよね。……人外(・・)扱いされてないだけ、まだマシだろうし……」



 ――()(びん)である。頑張れ、ユーリ。



「……何か聞こえたような気がしたけど……それは()いといて、次の問題は素材かな……?」



 鉄剣なんだから鉄で造るのは確定しているが、ただの鉄ではつまらない……と言うか、自分にとってメリットが無い。

 そう考えたユーリは、特殊鋼のようなものが作れないかと色々調べてみた――なぜか【田舎暮らし指南】に特殊鋼の情報が載っていた――が、クロームだのタングステンだのモリブデンだのバナジウムだのといった微量元素を入手する当てが無いため、現状では無理という事が判明した。

 唯一添加可能な元素として珪素(シリコン)があり、これを添加する事で強度が改善されると書いてあった。しかし、



「う~ん……材料全部を特殊鋼にしちゃうと、失敗した時が面倒だよね……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] たまにナレーション?に反応してるけど ツッコミは神様がやってるんかな
[一言] 「鍛冶だよな?」 の一文で危うくモニターが烏龍茶塗れになるところだったwww
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