第四十三章 甲骨の人 3.属性武器
骨を弄って根付けを作っていたら、それと意図したわけでもないのに、妙な効果が付いていた。勝手に効果が付くよりも、多少なりとも意図した効果を付けられる方がマシな気がするが、それには【付与術】とかのスキルが必要だろう。
ただ……付与術師の紹介などアドンに頼めば、またぞろ余計な詮索を招くだけだ。無理強いはしてこないだろうが、だからと言ってこちらの事情を垂れ流しにするのも宜しくない。もうしばらくは知らんぷりをしていよう。
それに……ユーリは新たな疑問点を感じていた。
「根付に加工した骨が属性に応じた守護効果を持つんなら、弾丸に加工してやれば属性攻撃ができるんじゃないか……?」
銃撃を単なる魔法攻撃以上のものにするための方策。その一つとして挙げた打撃力の増強であったが、当初思っていたような成果が得られないでいた。弾頭を硬化する事による徹甲弾擬きは何とか作れたものの、炸裂弾の開発が難航していたのである。いや、正確に言えば炸裂弾自体は作成できたのだが、これに属性攻撃を乗せる事ができなかったのである。
前世の地球なら単なる炸裂弾だけで済んだであろうが、生憎とこの世界では「炸裂弾」という概念は全く新奇なものであった。火薬自体が未発達なのだから、考えてみれば当たり前である。弾丸を【鑑定】した事でそれに気付いたユーリは、威力を確保しつつ炸裂弾の事を誤魔化すために、魔法による攻撃を弾丸に付与しようとした。……が、ここでユーリは躓く事になった。
石弾に火魔法や闇魔法――他の魔法よりも攻撃に向いていると判断された――を付与する方法が、能く判らなかったのである。試行錯誤の末に魔石を使う方法に逢着したのだが、これには一つの欠点があった。コストである。
何しろ魔石と言えば値の張るものと決まっている。ユーリは人工魔石という禁じ手を使えるが、だからと言って濫用していれば、人目を引くのは避けられない。骨で代用してコストダウンが図れるなら、それに越した事は無いのである。
そういった次第で、骨で作った弾丸の試用を行なったのだが……
「……駄目だな、これは……」
軽過ぎて打撃力や貫通力に劣るだけでなく、風の影響を受け易く弾道が安定しないという欠点があった。魔力で硬化する事はできても、質量までは変えられない。ぎゅうぎゅうに圧縮してみたところ、今度は肝心の魔法攻撃が発動しなかった。圧縮によって骨の構造が壊れた事が関係しているらしい。
「……これなら寧ろ、鏃に使った方が良いんじゃないか?」
そこまで考えたところで、ユーリは以前にカトラとダリアから聞いた話を思い出す。何でもエルフは金属と相性が悪いため、刃物などの素材に苦労しているという。だったら、魔獣の骨で何か作れないか?
かつてただの土から「魔製石器」を生み出したユーリである。同じように骨に魔力を行使すれば、何か使えるものができるかもしれない。試してみるだけの価値はある。ただ……骨の加工というのは、何の魔法の管掌なのだろうか?
「……って、まぁ【錬金術】しか無いよね。【鍛冶】でも扱えたのにはちょっと驚いたけど……」
――あろう事か、ユーリは骨を加工するにあたって、【錬金術】と【鍛冶】を同時に発動させるという暴挙に出ていた。【鍛冶】作業中に【錬金術】を使うのではなく、両者を併行して発動させたのである。まぁ、【錬金術】で骨を変形させている最中に、ひょっとして【鍛冶】でもできるんじゃないかと思ってそのまま発動させるという馬鹿な真似をしたのだが、保有魔力の大きさが災い――災いでなくて何だと言うのだ――して、そのまま【鍛冶】が発動してしまったというのが真相だが。
普通はこういう事は起きないのだが、ひょっとすると両者共通の添え字である(怪)――この経緯については後述する――が何か怪しげな仕事をしたのかもしれない。
ともあれ、結果としてユーリは「魔製骨器」なるものを手にする事になったのだが……
「ふ~ん……素材が骨だけに強い衝撃には弱いけど、軽くて水に浮くのかぁ……。切れ味もそこそこ良いみたいだし、何より、元になった魔獣の属性を帯びるっていうのがなぁ……」
〝またも面倒な逸品を作ってしまった〟――というのが、ユーリの偽らざる心境であった。