第四十二章 ユーリよ銃を取れ 4.試射
前世の日本では、狩りの季節と言えば冬であった。
この世界あるいは国でもそうなのかは知らないが、少なくとも冬に狩りの機会が――望むと望まざるとに拘わらず――訪れる事は確かである。
……冬越しの餌を求めてユーリの村を襲う魔獣という形で。
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『ゆーり まものがくるよ』
『おおきなくま おなか すかせてる』
『むらを ねらってるよ』
「またか……ありがとう」
冬の間は餌も少ないだろうと、小鳥たち用の餌台を作って雑穀や果物、脂身などを時々与えるようになってから、ユーリと小鳥たちの仲は頗る良好である。雑穀の一部はネズミのような小動物にも食べられるように地面に撒いているので、彼らとの間柄も改善されており、無闇にユーリの畑を荒らすような事は無くなっていた。冬越しの餌を栽培してくれていると思えば、慌てる必要は無いのである。
そんなこんなで小鳥やネズミ――のような生き物――たちは、何かあったらユーリに注進してくれる。【察知】よりも早い段階で情報を得る事ができるので、ユーリも早期警戒網として重宝していた。殊に、冬越しの餌を狙って村を襲う魔獣が増えているこの頃では。
外で麦の様子を見ていたユーリはやや物憂げに立ち上がると、【収納】から試作品の自動小銃――擬き――を取り出す。幸か不幸か、冬になって村を狙う魔獣が増えているので、試射の的には事欠かない。お蔭で小銃の改良も順調に進んでいる。
「それくらいの余録が無いと、やってられないよなぁ……」
村を囲む石塀の外に出たユーリは、ぼやきつつも小銃のチェックを行ない、射撃準備が整っている事を確かめた。
『きた!』
小鳥たちの声に目を上げると、およそ五百メートルほど先に、熊系の魔獣の姿が見えた。森の木々が葉を落としているため見通しは好く、林内にいるにも拘わらずその様子は能く見える。平和裡に交渉するという雰囲気はまるで無い。早くもユーリの姿を認めたらしく、咆吼――ユーリの耳には届かないが――を上げて襲う気満々である。
やがてユーリ目がけて駆け出した熊系の魔獣――リグベアーという種類らしい――の頭部が弾け、魔獣はその生涯を終えた。
「大体四百五十メートルくらいかな。射程としては正直物足りないけど、山林でこれ以上の見通しを求めるのも難しいだろうし、炸裂弾にすれば威力もそこそこはあるみたいだしね。六ミリ弾を使う方はアサルトライフルタイプにするか」
軽い気持ちでライフル銃の開発に取りかかったユーリであったが、早々に口径と射程の問題に直面する事となった。
長射程を望むのであれば、直進性の高い弾丸は不可欠である。そのためには大きくて重い弾丸を採用する事になるが、そうなると必然的に取り回しに難が生じる。逆に取り回しを向上させようとすると、銃本体を軽量化する必要が生じ、結果的に小口径弾を多数装備する方向に進む。ざっくり言って前者が狙撃銃やバトルライフル、アンチマテリエルライフルの系統であり、後者がアサルトライフルの系統になる。
これに加えて、子供一人で運用できる――火器に対する要求諸元としては異例――事と、連射・速射性能が高い事を考慮に入れると、最終的にユーリが開発すべきは自動小銃、所謂バトルライフルかアサルトライフルであろうという事に落ち着いた。対ドラゴン戦を見据えるならば対戦車用のアンチマテリエルライフルのようなものも必要だろうが、今はそれより使い勝手の好いものを実用化し、運用経験を積むべきと判断したのである。……運用経験というのが小銃による実戦という事については、とりあえず措いておく事にして。
あれこれ試作と試射を繰り返した結果、六ミリ弾を使用するアサルトライフルタイプと、十ミリ弾を使用するバトルライフルタイプの二つが候補に残った。前世地球の小銃の口径は、五.五六ミリだの十二.七ミリだのとややこしかったが、ユーリは切りの良い六ミリと十ミリで開発していた。
ともに着脱可能な箱型弾倉を持つ自動小銃タイプで、後者の方がやや長銃身。そのせいで取り扱いは少し面倒になったが、射程が長い上に銃弾も大きいため、威力は前者とは較べものにならないほど大きい。
苦心惨憺の結果、炸裂弾の開発に成功した事で、打撃力も向上している。前世地球のように弾頭に爆薬を詰めたのではなく、着弾後僅かに遅れて弾丸が破裂するように魔術式を組んだのである。……結果、弾丸の一発一発が手作りとなり、非常に手間がかかる事になったが。
ちなみに徹甲弾の方は、単に弾丸を硬化させるだけなので面倒は無かったが、ホローポイント弾の方は、弾丸の素材が石器であって変形しにくいために不適当となった。
「まぁ……当面は切り札的に使う事にして、弾丸の消費を抑えよう」
――それが良いと思う。