第四十二章 ユーリよ銃を取れ 1.銃への道
「う~ん……」
毎度お馴染みの唸り声を上げて、腕を組んでいるのはユーリである。今日のお題は何かというと……
「やっぱり……戦力の貧困さが問題だよね……」
――どの口で言うのかと突っ込みたくなるが。
「熊とか猪くらいなら、僕でも隙を衝けば何とかなるけど……ドナが言ってたようなドラゴンとかだと……さすがにナイフぐらいじゃどうにもならないだろうし……」
どうやら、ローレンセンの魔道具屋でドラゴン避けの結界具を買おうとして果たせなかった事が、未だに引っかかっているようだ。一応、魔獣避けとして売っていたものも買ってはみたのだが、物理的な結界とかバリアーではなく忌避効果によるものだったのには、些か当てが外れた思いをさせられた。期待外れではあったが、魔術式を解読していると闇魔法が少し上達したので、これはこれで良しとしておく。
「ドラゴン避けの魔道具なんて売ってないって断られたし、ドナにはドラゴンなんか出てきたら逃げる一択だって言われたし……だったら、対ドラゴン用の防衛設備は、自分で何とかするしかないか……」
――なるほど。ユーリが危惧しているのはドラゴンクラスの魔獣らしい。確かにそれなら、〝戦力が貧困〟という表現が出てもおかしくはない。……ないのだが……一個人で対策を練るような案件ではないような気もする。
「まぁ、いきなり巡航ミサイルとか四十六センチ砲とかはさすがに造れないし、もう少し手頃なところから始めるか」
……手頃なところから始めるという方針に異議は無いが……巡航ミサイルや四十六センチ砲が最終目標なのか?
「盗賊との一戦も反省材料だし、最初は対人戦にも使える道具がいいよね。……うん、対戦車ライフルとかはどうかな?」
現代では対物ライフルに取って代わられているが、対戦車ライフルというのはその名のとおり戦車を屠るための武器である。確かに対人戦闘に使われた事例もあるようだが――本来は対人戦を想定した武器ではない。
「やっぱり最初は穏当なところから始めないとね」
……少しも穏当ではない。
他人に見られた場合はどう説明するつもりなのか。
「火薬とかは使わずに、魔道具として作ってやれば、そう面倒な事にはならないんじゃないかな」
……一応考えてはいるらしい。騒ぎにならないという見込みは甘いと思うが。
ちなみに火薬が早々に棄却されたのは、原料の入手が困難という事情もある。塩辛山に引き籠もっているユーリに、硫黄だの硝石だのを入手する方法は無いのである。
硝石については、ヨモギをどうこうさせて作るという話を聞いた事もあるが、肝心のヨモギがこの辺りには生えていない。日当たりの好い場所を好むので、山林の多いこの辺りには生えていないのかもしれない。硝石にしろ硫黄にしろアドンに頼めば手に入るだろうが、火器の技術は一応秘密にしておきたい。この世界の技術進化に介入云々と言うよりも、主に自分の安全保障という意味で。
とは言え、いつぞやの鳥の魔物の事もある。対空戦にも使える火器は重要だろう。
ともあれ斯くいった次第で、ユーリは「魔導兵器」の開発に着手したのであった。
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「う~ん……前世の知識で運用とかを考えると……やっぱり本命は質量兵器かなぁ……」
光線砲でも造るつもりだったのかと突っ込みたくなるが、どうやらそっちではなく、火魔法による火炎放射器とかを考えていたらしい。ただ、この手の魔法攻撃はいずれも減衰率が大きく、射程が短いために却下となったようだ。
「弓より射程が短いようじゃ、開発するメリットも小さいよね」