第三十六章 パーティクルボード 2.製作
さて、パーティクルボードを作れるようになった事で、木材の不足は――少なくともその一部は――解消されそうな風向きである。
「羽目板なんかの一部はこれで間に合わせるとして……他にも何かに使えないかな?」
折角作ったパーティクルボードである。今まで木材が足りずに土魔法で間に合わせていたものを、このパーティクルボードに差し替える事はできないか?
差し替えの候補となりそうなものは無いかと探し回ってみたところ……
「俎かぁ……今までは土魔法で作った板だったんだよね……」
俎に廻せるような板の余分が無かったため、やむを得ず土魔法製のもので代用していたが、さすがに硬過ぎて包丁を傷めそうな気がしたので、パーティクルボード製のものに交換した。水仕事なのに大丈夫かという思いはあったが、それも含めて実験だと考え直す。少なくとも庖丁には優しい筈だ。
ついでに庖丁の柄もパーティクルボード製に替えておく。石製だと冬などは持つ手が冷やりとしたものだが、パーティクルボードは一応木材由来であるために、手に持った時にもそこまで冷たくない。小さな事ではあるが、意外と気持ち的には無視できない。
「やっぱり、温かみのある素材って大事だよね」
――と、言ったところで気が付いた。温かみ云々というなら風呂道具だろう。洗面器を土魔法製からパーティクルボード製に替えておこう。
――ここで少々ユーリの風呂場事情を説明しておこう。
日本人の性として風呂の存在は譲れなかったユーリであるが、最初の頃は単に土魔法製の浴槽に浸かるだけで済ませていた。何しろ最初は石鹸も垢擦りも無かったため、他にどうしようも無かったのである。
その後に生活魔法の【浄化】の事を思い出し、とりあえず汚れを落とす算段はついたものの、やはり気分的な物足りなさは如何ともし難く、最初に垢擦りの代わりになるものを見つけ出した。サトイモのような大きな繊維質の葉を持つ植物で、闇魔法で腐蝕させて葉の繊維を取り出すと、ヘチマの代わりになったのである。【浄化】では基本的に表面に付いた汚れしか落とせないため、垢擦りを確保できた事は、衛生的にも気分的にも大きかった。その後はサポニンを含む植物を見つけ出したり、獣脂と灰から石鹸を作ったりと、次第にユーリの風呂生活は前世日本のそれに近づいていたのだが……
「手桶だけはどうにもならなかったからなぁ……」
木材もプラスチックも入手できなかったため、やむなく土魔法製の洗面器や盥を使っていたのだが、どうにも重くて使いづらかったのである。水を入れるとますます重くなるので、小さめの洗面器にせざるを得なかったのだが、使いづらい事はどうにもならなかった。
パーティクルボードとは言え、自由に使える木質素材が手に入った事で、ようやく使い易い洗面器を手に入れる事ができたのであった。普通の木材と較べて腐り易いかどうかなどは、これは実際に使って確かめるしかないだろう。
「他は……作業小屋の木挽き台とか? 強化しておけば大丈夫かな。あとは、簡単な棚とかも作れるな」
本棚などの家具を作る事も考えはしたのだが、棚に入れるほどの小物が無いのが現状のユーリである。無理して作る事も無いので、これは後廻しにされた。
「けど、小箱の類はあるといろいろ便利かな。木目が無いけど、これは上から塗装すれば判らないだろうし」
塗料の類は今度ローレンセンに行った時に考えよう。