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第三十六章 パーティクルボード 1.試作

 不足する木材の代替品という事を漠然と考えていたユーリが思い出したのは、前世日本では()く見かけたパーティクルボードの事であった。おが屑を接着剤で固めたようなもので、木材の完全な代替品にはならないが、それでも家具などには結構使われていたし、作り方次第では松明(たいまつ)の代用品にもなった筈だ。

 適切な接着剤は手元に無いが、それはユーリの【木材変形】でどうとでもなるだろう。ただし肝心のおが屑自体がほとんど無い。今度ローレンセンへ言った時に貰ってくるという考えが頭の隅を()ぎるが、説明が面倒なのと、今現在の木材不足という問題の解決にはならないので、ひとまずスルーする事にした。


 しかし、木材として使用に耐えない木っ端などを変形して材にするというのは良いアイデアだ。そういった端材は薪にするつもりで取ってある。と言うか、ローレンセンでも薪として購入してきた分がある。万一の場合はそれらを使う事もできるかと考えていたユーリであるが、ここで第二の天啓が訪れた。



「……いや、ケナフの残りって、取ってあったよね?」



 製紙原料として栽培しているケナフ――こっちの名前ではケンファ――であるが、実のところ製紙に使うのは(じん)()繊維だけで、それを取った残りは結構な量が【収納】の肥やしになっている。さっさと本当の肥やしにして畑に還元しないのはなぜかというと、



「……確か……心材は蒸気で加熱して圧縮成形すれば、接着剤不要でパーティクルボード化できる――って、説明に書いてあったような気が……」



 今の今まで綺麗さっぱりと忘れていたが、製紙原料を取った残りのケンファを材料に、パーティクルボードが作れるらしい。【木材変形】と【木質強化】を取得した今のユーリなら、更に強度の高いボードを得る事も可能だろう。

 パーティクルボードを作る技術はこの世界には存在しない筈なので、目立つところに使うわけにはいかない。また、魔法で強化できたとしても所詮はパーティクルボードなので、強度が必要な構造材には使えないだろう。

 しかし、目立たないところの羽目板などに使うだけでも、かなりな量の木材を節約できるのではないか。前世の日本でやっていたように、ベニア板を化粧材として表面に貼る事ができれば、一見しただけでは普通の板と区別できないようにできるかもしれないのだが。



「さすがにベニア板なんかは作れないしね。あれは、丸太を薄く()いでから貼り合わせて作るから」



 丸太を剥ぐような道具か魔法を作り出さない限り、ベニア板の再現は不可能だろう。そう考えていたユーリであったが……



「……いや……待てよ? ベニア板そのものは無理でも、(かんな)屑をボードの表面に貼る事ぐらいならできないか?」



 幅のあるボードの表面に貼るのなら、そのための(かんな)屑も幅広いものである必要がある。そんな幅広の(かんな)などは無いので、それが必要となったら自作するしかない。しかし、(かんな)屑程度の幅のボードを作って試してみるくらいなら、今でもできるのではないか?


 生憎(あいにく)とこの世界の――と言うか、少なくともこの国の(かんな)は西洋風の()(がんな)で、ユーリが馴染んだ和風の()(がんな)ではない。しかし、幸いにして(かんな)の本体は木製である。これなら【木材変形】で形を(いじ)って、見慣れた形の()(がんな)に変える事はできそうだ。要は刃の向きを変えてやればいいだけである。



「……見慣れた形とは違うけど、一応これで()(がんな)になっている筈なんだけど……うん、大丈夫。何とか使えそうだ」



 あまり褒められた手並みではないが、ともあれ何とか板に(かんな)をかけて、そこそこ綺麗な(かんな)屑をゲットする。それをパーティクルボードに貼って……



「……じゃなくて、まだ作ってなかったよパーティクルボード」



 手順前後も(はなは)だしいが、慌ててケンファの心材をチップ化して、蒸気とともに加熱圧縮成形を施す。火魔法と水魔法が、今日も良い仕事をしてくれる。【木材変形】だけでも成形できる気がするが、まずは説明どおりの方法で作ってみる。



「……うん。普通にパーティクルボードだよね」



 木目も何も無い、分厚いボール紙のような表面を持つパーティクルボードが目の前にあった。これだけ見れば何の素材かなど判らないだろうが、少なくとも木材と答える者がいないだろう事は確かである。



「けど、これに(かんな)屑を貼ってやれば……あれ? 上手くいかないな。歪んだり皺が寄ったりして……あ、千切れた……」



 手作業でやろうとして上手くいかず、業を煮やした挙げ句に魔法で貼る事にする。……最初からそうすればいいのに。



「……何か……どこかで誰かに(そし)られたような気がするけど……とにかく、ぱっと見は板に見えない事もない……かな?」



 ユーリの言うとおり、平面部分だけ見れば普通の板材に見えなくもない。ただし、板の側面を見れば、普通の板でない事は丸判りであった。



「けどなぁ……側面まで態々(わざわざ)(かんな)屑を作って貼るのも面倒だし……とりあえず、擬装の必要が無い場所に使うぐらいにしておくか」



 ――ちなみに、以前として【木工】スキルは未解放のままであった。

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[一言] 1巻購入したので、最初から読み直しをしてます。 >――ちなみに、以前として【木工】スキルは未解放のままであった。 依然として
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