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第三十五章 異世界恒温室事始め 2.培養/栽培実験室(その1)

 ()(たつ)という魔性かつ禁断の家具を得て自堕落に浸っていたユーリであったが、そもそもの動機となったのが恒温の魔術式の作動試験である事は忘れていなかった。長時間の耐久作動試験――その実は、日がな一日()(たつ)でヌクヌクゴロゴロしていただけ――も済ませた今、いよいよ本番の恒温室の作製に取りかかろうとしていた。



「と、言っても、醗酵蔵の恒温室化はまだ先だけどね」



 何しろ醗酵蔵は、蔵と言うだけあって大きい。最終的には味噌樽や醤油樽が並ぶわけであるから、それなりの大きさが必要なのは事実であるが、



「いきなりそんな大がかりなシステムなんか組めないし、まずはもう少し小規模な恒温室から始めないと」



 ――小規模な恒温室。そんなものが一体何のために必要なのか。


 その答が、ユーリが先程から眺めている植物にあった。ローレンセンの市場で入手してきた品々である。



「……うん、甜菜(てんさい)とその他の(かぶ)は、問題無く培養できそうだね」



 〝組織培養〟

 ユーリが取り組もうとしている……と言うか、こちらの世界で再現しようとしている技術の名前であり、恒温室を必要としている理由でもあった。


 以前からユーリは役立ちそうな木の枝などを持ち帰っては挿し木での繁殖を試みており、そのために木魔法が大活躍していた。しかしローレンセンの市場では、葉や果実などの可食部だけ、それも収穫後かなり日数が経過しているものしか手に入らなかった作物も多く、そういうものを栽培化できないかと色々考えているうちに思い出したのが……前世の地球で行なわれていた「組織培養」であった。

 幸いにしてユーリの【収納】には、生物の組織などを殺さずに保管しておくための、「チルド設定」のオプションが追加されている。新鮮な状態で購入したものなら、その組織から元の植物を培養し再現する事もできるのではないか? 実際の組織培養では、栄養素の他に色々な植物ホルモンを添加していたような記憶があるが、それらの機能は木魔法で代用できるのではなかろうか……


 このような(もく)論見(ろみ)を抱くに至ったユーリは、そのための実験室として、無菌もしくは滅菌状態のクリーンルームと、室内を適温に保つ恒温室の機能を必要としていた。滅菌はいつものように光魔法でどうにかなる――なるよな?――として、ネックになりそうなのが恒温室であった。しかし、ローレンセンで購入した魔道具に組み込まれていた温度調節の魔術式を応用する事で、実現の目処(めど)が立ったのである。



「まずは普通の組織培養から始めるとして……木魔法を上手く使えば、乾燥した組織を復活させて培養とかできないかな?」



 それが可能になれば、薬草だの防虫剤だのの原料植物を復活させて栽培できるのだが……さすがに難しいだろうという気はしている。しかし……



「胡椒ぐらいなら、種子から発芽させたりできないかな?」



 胡椒に限らず香辛料の栽培が可能になれば、食生活は一気に豊かになる。作物として販売するのは色々と(まず)そう……と言うか、ヤバそうな気はするが、慎ましやかに自家消費するくらいなら許されるのではないか?



「まぁ、仮に発芽させる事ができても、この土地の気温じゃ畑での生育は難しいだろうけど」



 香辛料の多くは熱帯や亜熱帯の原産であり、前世のヨーロッパに近いこの国での栽培は不可能と言ってよい……加温設備が無ければ。



「板ガラスの製造に成功した以上、温室の建設も見えてきたわけだけど……あまり目立つものを造るのもどうかと思うし、ここは目立たない恒温室から始めるのが適当だよね」



 ――どう考えても〝適当〟ではない。どこからそういう発想が出てきたのか。



「まぁ、何はともあれ、恒温室が無いと始まらないし、造ってみるしかないよね」



 こういうざっくりとした理由から、ユーリは加温設備を持った小規模な恒温実験室の建造に踏み切ったのであった。……まぁ、小規模とは言ってもそれは醗酵蔵と比較しての話で、この実験室も学校の教室程度の広さはあるのだが。

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