第三十四章 ユーリ村改修計画 6.木工
苦心惨憺して作り上げた引き鋸――正直、使い勝手は今一であったが――を使って、ユーリは改めて椅子の製作に取りかかった。角材を所定の長さに切り揃え、切断面に鉋をかけ……るのは木魔法の【木材変形】で代行した。この国では鉋も引き鉋ではなく押し鉋になっており、この上更に鉋まで作り直す気力が無かったためである。板を丸く切り出すのには、引き鋸の薄い刃が役に立った……目立てとあさり出しが甘いせいか、切れ味の方はもう一つであったが。板の整形も【木材変形】で行なったが、ほぞ穴を刳るのはちゃんと鑿を使ってやった。
ユーリとしては立派な大工仕事をやったような気になっていたのだが……
「【木工】のスキルは解放されてないなぁ……」
作業中にスキルが生えた感覚も無かったし、実際に【ステータスボード】の画面で確認しても、【木工】のスキルは未解放のままであった。
まぁ実際にやったのは、角材と板を幾つか切ってほぞ穴を開けた程度である。鉋に至っては手も触れていない。それくらいでスキルが生えるようなら、この世界の人間は皆スキル持ちである。
「【木工】スキル獲得のためには、もっと色々作る必要があるな……」
――いや、本来の目的は、村の生活水準の向上ではなかったか? 【木工】スキルの獲得は副次的な成果だと思うのだが……
「何か他に作るものは無いかな……。鋸だって、折角作ったんだから使わないと損だし……」
……手段と目的が見事にすり替わっている気がするが、色々と作っておいた方が良いのは事実である。
家々の補修をして廻ったが、端材を切って木魔法で補修するくらいでは、木工のスキルは上がらない。
「他に作るもの……あ、梯子なんかどうかな」
今すぐに使うわけではないが、確かに今後必要になるかもしれない道具ではある。その時になって慌てふためくより、今のうちに作っておいた方が良いだろう。今後は雨漏りの修繕をする機会も増えるだろうし。
――と、いう事で、結構長めの梯子を一つ作ってみたのだが……
「これでもスキルは生えないかぁ……」
こうなると、あとは机とか棚とか箱とか、場合によっては箪笥とか建具とか、あるいは風呂桶にまで手を出す必要があるのだろうかと些か悲観的になっていたユーリであったが……ころりと失念している事があった。
実は――ユーリはここまで、釘の類を一本も使っていないのである。
椅子の脚も梯子の横木も、ほぞ穴に差し込んだ後で【木材変形】でしっかりと接着したため、釘の出る幕が無かったのだ。傷んだ羽目板の補修なども【木材変形】と【木質強化】で行なっているため、こちらでも釘の出番は無かった。釘打ちが【木工】スキル獲得の必須要件かどうかは不明ながら、かなり偏った技術になっているのは事実である。
しかしながら、当のユーリはそれに気付く事も無く……
「う~ん……木工っていうのとは少し違うかもしれないけど……神様の像でも彫ってみようか。考えてみれば、時々お祈りくらいはしてたけど、ちゃんとした神棚とか祠とか、全然作ってないよなぁ……。この際だから……って言うのも失礼かもしれないけど、作ってみてもいいよね」
――全く別な事を考えていたのであった。
「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」・「スキルリッチ・ワールド・オンライン」・「なりゆき乱世」・「デュラハンの首」・「飽食の餓死者」など、他作品もよろしくお願いします。