第三十四章 ユーリ村改修計画 3.木に木を接ぐ
その時の心情を説明しようとするなら、正確なところを言えば「考え無し」、少し柔らかな表現を使えば「思い付き」というのが適切だろう。
ともあれそれは、ユーリが倉庫代わりの空き家を補修するため、損傷部の下調べをしていた時の事だった。
「あぁ……この柱はもう駄目かな……」
風雨に曝された部分が朽ち落ちている柱を見て、ユーリが諦めたように呟いた。他の柱はまだしっかりしているから、今すぐ倒壊するような事は無いだろうが、柱以外の部分も結構傷んでいる。それらを全部取っ替えるとなると、かなりな木材が必要だろう。そうまでして、この空き家を維持する必要があるのか、それともいっそ解体して、材木だけを再利用するか。判断が難しいところではあった。
「建物の数自体は多いけど、だからと言って安易に壊すのもなぁ。万一の場合、僕一人じゃ家を建てるのは難しそうだし……。それを考えると、今ある家は極力残しておきたいんだけど……」
土魔法で家を建てるというラノベではお馴染みの展開については、先頃実証実験――醗酵蔵の建設――を始めたばかり。安全が確保されるまでは、土製の家になぞ住みたくない。それに、土魔法で建てた家の住み心地が良いとは限らないのだ。夏の陽射しに炙られたコンクリートが、焼けるように熱くなる事を考えてみるがいい。
「う~ん……ラノベだとこういう時、土魔法でさっと補修していたりするんだけどなぁ……」
生憎、補修したいのは木造家屋の木の柱だ。土魔法で補修するのは難しいだろう。柱一本を丸ごと土魔法で作る事はできるかもしれないが、今度はそれに板材を打ち付けるのが大変そうだ。土魔法のようにぱぱっと補修は……
「……いや……本当にできないのか……?」
石壁などを土魔法で補修する場合、そこらの土を材料にして新たな壁を生み出し、それを魔力で硬化させている。
腐朽した木材の欠損部を、別の木材で埋める事自体は……
「……魔法とかじゃなくて、前世の日本でも普通にやってたよな……」
強度の点を別にすれば、そういう補修自体は日本でも行なわれていた筈だ。同じような事を魔法でできないか? お誂え向きの物件がここにあるのだ。ある意味で実験の好機ではないか。強度の点が不安ではあるが、それも含めて実験するのなら、この空き家も役に立つというものだ。
「……うん、端材を使って試してみるか」
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結論を言えば、端材を充填剤のように使用しての補修は成功した。……それも、ユーリが想像する以上のレベル……と言うか、次元で。
腐朽部分が大きかったせいで、思っていた以上の木材を消費はしたが、どうせ使い所に困る木っ端ばかりで惜しくはない。木切れが溶けるように消えては欠損部が埋まっていく様子は……見ていて面白いような気味が悪いような、何とも形容に困るものではあったが。そんな事よりも、問題は……
《魔製集成材:木魔法の【木材変形】と【木質強化】を使う事で、腐朽した部分を他の材の木質で充填して補修した木材。魔力による強化も併せて施されたため、その強度は通常の木材を遙かに上回る》
「……うん……謎が増えたよね……」
【木材変形】と【木質強化】という見慣れないスキルを眼にしたユーリは、一応説明を読んではみたのだが……
「……うん、リグニンがどうとかセルロースがこうとか……能く解んないや」
あっさり原理を理解するのを放棄して、その使い方のみを熟読する。とりあえず、端材を消費して木材を強化できる事は解ったので、今のところはそれで充分と思い切る。スキルも家電も所詮は道具。原理や構造が解らなくても、普通に使う分には不自由は無い筈だ。
「……必要になった時に、改めて調べればいいよね……」
今はこのスキルが使える事と使い方を知っておけば充分。そう割り切ったユーリは、羽目板の破損だの窓枠のガタつきなど家々の破損部のほとんどを、新たに得たこのスキルを使う事で補修して廻ったのであった。