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第二章 来た、見た、食った 5.山の幸(その4)

 どうにか血抜きを――一般の遙か斜め上の方法で――クリアーしたユーリであったが、そこに第二の試練が立ち塞がる。



「確か、血抜きをした獲物は水に漬けて冷ます……って……水場なんかどこにあるっていうのさ……」



 ユーリはまだこの地に転生してから三日目であり、当然周囲の地形などはまだ把握していない。村へ戻れば井戸はあるが、まさか井戸の中に沈めるわけにもいかない。先人が井戸だけで水の全てを(まかな)っていたとは考えにくいので、どこか近くに川なり池なりがあってもおかしくないのだが……



『にんげん? どうかした?』



 途方に暮れているところへ、聞き覚えのある声がかけられた。



『あ……確か、村にいた……』

『くさのみ ごちそうさま』

『どうかした?』

『あ、うん。獲物を冷やしたいんだけど、近くに川か何かないかなと思って……』

『みずば? あるよ』

『うん かわ ある』

『むこう』

『わりと おおきい』

『ちかいよ』



 古びているとは言え小麦や大麦を椀飯(おうばん)()()いしたせいなのか、小鳥たちの好感度は予想以上に上がっていたらしい。親切に川の位置を教えてくれた。情けは人のためならず。この格言を今日ほど強く実感した事は無い。



『ありがとう!』

『どういたしまして またね』

『またね』

『また あした』



 口々にそう言いながら飛び去って行く小鳥たちを見送って、ユーリは血抜きした獲物を教えられた水場に……



「……これ……百キロくらいあるよね……」



・・・・・・・・



 一旦【収納】に仕舞い込めば重さは問題無くなるのではないかと気付き、首尾良く川までマッダーボアを運ぶのに成功したユーリは、何とか獲物を水に沈める事に成功する。流されないように縛り付けておく必要があるのではないかと気付いたのはその後の事。ロープなど持っていないと更に気付いたのがその直後。

 (きゅう)(きょ)川底から土魔法で杭を伸ばし、それに引っかけるようにして流失を防ぐ算段をとった。

 二時間ほど漬けてそろそろ冷えたかなと思う頃合いで引き上げ、この後の作業すなわち獲物の解体は村に戻ってやる事にする。何しろ素人が初めて、しかも一切の手助けも無しに、百キロ級のイノシシの解体に挑むのだ。どれだけ時間がかかるのやら知れたものではない。ここは安全策を採るべきだろう。



「……まぁとにかく、イノシシ肉は獲れたし、付け合わせの山菜もあるから、軽く塩胡椒でも振って……」



 そこまで口にしたところで、ユーリは気付いた。気付いてしまった。

 ここには胡椒などの調味料はおろか、塩すら満足に無いという事に。



「……落ち着け。確か【収納】の中に当座の分はあった筈だし、無いからって即死するようなもんでもないんだから……」



 食事が味気無くなるのは確実だが。


 ヌルデのようなものでも生えていれば、実から塩分を採る事もできるが、それとて時期は秋から冬。今の時期に残っているかどうかは微妙である。



「……やっぱり村に戻るか」



 ユーリには一つ確かめたい事があった。

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