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第二十九章 大いなる?遺産 3.錬金術師の遺品

「ここですよ。彼が寝泊まりしていたのは」



 そう言って、商業ギルドから派遣された男はユーリたちを一室に導いた。決して小さいとは言えない小屋だが、中に雑然と置かれたあれこれのせいで、実際以上に狭く感じる。



「ここに、その方が住んでらしたんですか……」



 感に堪えない様子のユーリを見て、商業ギルドの男は複雑な表情を浮かべる。村の連中から聞いた限りでは、ここに住んでいたのは決して腕が良いとは言えない三流の錬金術師。「その方」呼ばわりされるほどの人物ではなかった筈だ。歳も歳だったし、風邪が元であっけなく死んでしまったのだという。

 身よりの無かったらしい老錬金術師の遺品を整理するべく派遣されて来たのだが……想像以上にガラクタばかりで、競売(たたきうり)にかけても葬式代が出るかどうかと危ぶんでいたところに、ローレンセンの有力商人の紹介状を携えた子供がやって来て、遺品の一切合財(いっさいがっさい)を引き取りたいという。何かの裏があるのではないかとも思うが、それは自分の知った事ではない。ギルドからも別段新たな指示は来ていないし、自分としてはガラクタを厄介払いできればそれでいい。



「代金は頂戴しましたので、全てお好きになさって構いません。ご不要のものがありましたら、そのまま残して置いて下されば、こちらで処分いたしますので」

「解りました。ご案内、ありがとうございます」

「いえ、これが仕事ですから」



 一礼して職員の男と別れると、ユーリは新たに自分のものとなった「お宝」に期待の目を向ける。



「ね、ねぇユーリ君、あたしが口を挟む事じゃないし、今更だとも思うんだけど……ここにあるのって、本当にガラクタばかりに思えるんだけど……」

「本当に今更だな……」

「金を払う前に言うもんだろ、そういう事は……」

「うるさいわね! 何か言う前にユーリ君が代金を支払ったんだから、しょうがないでしょ!」



 そう。ユーリは村の役場に着くや否や、商業ギルドから派遣されてきた職員の男にアドンからの紹介状を差し出し、そのまま即金で全てを買い取ったのである。交渉や助言の入る隙など、どこにも無かった。



「いえ、これは僕には宝の山ですよ。そもそも錬金術に使う道具とか素材が何なのかすら僕には判りませんし。でも、ここには一通りの道具も素材も、それに教本も揃っているようですし」

「教本?」



 ユーリの視線が向いている先には、「錬金術提要」「錬金術の要諦」「貴方にもできる錬金術」「これで君も錬金術師だ!」などという表題の書物があった。

 この世界、活版印刷が未発達な事もあって、書物と言えば全て手書きの写本であり、従ってそれなりに高価である。これらの書物は、筆跡が全て同じところを見ると、恐らくこの小屋の住人が筆写したものであるらしい。ただし全てボロボロに擦り切れており、他の錬金術師が興味を引かれるかどうか……()(てい)に言えば売れるかどうかは微妙なところである。



「ユーリは錬金術師になるつもりなのか?」

「まさか。そんな気があったら素直に弟子入り先を探しますよ。僕に興味があるのは独学でできる程度の事です。そんな程度の事でも、知っているといないとじゃ大違いですから」

「でもよ、それだけのためにあれだけの金を支払うってのは、勿体無くねぇか?」



 疑わしげに()いてくるフライに向かって、ユーリはきっぱりと首を振る。



「僕の村の辺りだと、小さな技術の一つ一つが生きていく上で不可欠なんです。他からの援助を期待できる立地条件じゃありませんし……」



 なるほど、塩辛山なら確かに――と、心の底から納得する「幸運の足音」。普通ならそんな場所はさっさと見切りを付けるのだろうが、ユーリが持ち込んだ品々から察するに、見切りを付けるには惜しい場所なのも事実らしい。



「払えない額じゃありませんし、命より高いものなんかありませんよ」



 というユーリの言葉にも、一同頷かざるを得ない。たしかに、真似事程度の錬金術でも、役に立つ場合は少なくない。それに……



(「何たって、ユーリの事だからな……」)

(「……あの自作ポーション、物凄い効き目だったわよね……」)

(「ほとんど死にかけてた『赤い砂塵』の連中が、生き返ったからなぁ……」)

(「錬金術だって何とか究めちゃいそうよね……斜め上の方向に……」)

(「あぁ、斜め上にな……」)

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― 新着の感想 ―
[一言] 道具なんて魔製石器で作ってしまえば良いだけなのにね。
[一言] もしかしたら斜め下に極めるかもしれない(ボソッ)
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