第二十八章 珍品堂主人 2.ぼくのかんがえたやくにたつまどうぐ
「「「………………」」」
「……あんたね、そんな代物、一介の魔道具屋が扱えると思ってんのかい?」
「……扱ってないんですか?」
「国が発注するような代物だよ。領主だって買うのはきついだろうさ。況してや、個人で注文するようなもんじゃないよ」
「あれ? だったら、皆さんはどうしてるんですか? ドラゴンとかが出たら困りません?」
「「「「………………」」」」
野犬や猿が彷徨いて困る――というレベルの感覚で、しかも真顔で相談するユーリに、どう答えたものかと頭を抱える店主。気のせいか頭痛がしてきたような……
「……あのねユーリ君、ドラゴンとかが出てきたら、普通は着の身着のままで逃げ出すものなのよ?」
「え~、家を捨てるような真似はしたくないし、やっぱり追い払う道具とか欲しくありません?」
「……とにかく、うちじゃ扱ってないからね。他のものを探しとくれ」
「う~ん……」
魔獣避けが無理となると……他に欲しいのは、戦力としての機動力だろうか。これなら戦闘以外でも役に立ちそうな気がする。
「だったら飛行具とか、高速移動できる乗り物とかはありますか? 時速七十キロ以上、できたら二百キロか、それ以上のスピードが出せるやつ」
日本での自家用車――と自家用機――と同じ感覚で要望を伝えたのだが……
「「「………………」」」
「……軍が装備品に採用するレベルだよ。個人でどうこうできるもんじゃないね」
「え~?」
「……ったく……庶民の店に何を望んでるんだい。家の中で使うもんに限定しな」
「う~ん……」
……家の中で使うとなると、生活家電みたいなイメージかな?
掃除機と洗濯機……どちらも【浄化】の魔法で何とかなるな。
パソコンやワープロ……うん、無理だね。そもそも活版印刷自体が、まだ広まってないみたいだし。
水洗便所……魔「道具」ってレベルじゃないよね。普通に「設備」だよ。
電子レンジやIHヒーター……これも論外じゃないかな。いや……魔法で同じような事って、できたりしないか? ちょっと訊いてみたいけど……何と言って説明したらいいんだろう? ……どう説明しても、胡散臭く見られそうな気しかしないな。諦めよう。
冷蔵庫は……保存だけなら【収納】で充分か。冷やす必要はそこまで無いね。けど、温度調節の機能は欲しいかも。
温度調節と言えばエアコンだけど……無理かな。仮にあっても、値段が高くて手が出なかったりして。……これも温度調節の仕組みだけ、別途手に入らないかなぁ。
う~むと悩みつつ店内を見て廻っていたユーリであったが、ふと目を遣った片隅に、十把一絡げという感じで置いてあるものに気がついた。
「あぁ、ありゃあ売れ残りさね。ちゃんと動くには動くんだけどね……何と言うか……微妙なものばかりでね……」
――なるほど、確かに微妙なものばかりであった。
自動的に汚れを落とす羽根箒……というのは、勝手にゴミを撒き散らすという事だろうか? 凄いのは凄いのかもしれないが、役に立つかどうかは確かに微妙である。ただ、その中に……
「手袋を温めるための魔道具?」
「あぁ。この箱に手袋をしまっておくと、温かくなるっていうんだけどね……」
随分とニッチな道具である。役には立つかもしれないが、大枚支払って求めようとする者がいるとは思えない――たった今までは。
(これって……要するに小さな恒温槽だよね? 温度調節機構の付いた。……あれ? けど……)
箱の中の気温をモニターして調節する仕組みらしい。エアコン代わりに使えないのかと訊いてみたら、魔力効率が悪すぎるという答えが返ってきた。しかし、小規模な箱の中の気温を調節するのなら、別に問題は無い筈だ。
……例えば、種麹の培養槽とか。
ユーリは嬉々として購入したのであった。