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第二十七章 金になる木 2.木挽きの業

「なるほど……立ち枯れた木の朽ち残りか。……て事は、まだ手に入るのか?」

「探せば多分。ただ、全てがこれと同じ種類ではないと思いますので、確約はできません」

「それもそうか……」



 十やそこらの子供が塩辛山に住んでいる理由だとか、異常とも思えるマジックバッグの容量とかは気にしない事に決めたらしい工房主――エムスと名告(なの)った――は、彼にとって重要な点だけを(たず)ねていく。



「枯れた木なので、品質的にどうなのかは僕には判りませんけど」

「いや、それは問題無い。これでもこの商売長いんでな、材の目利きぐらいはできる。魔力の馴染みも良いようだし、間違い無しの一級……いや、特級品だ」

「……魔力?」



 (いぶか)しげに眉を(ひそ)めたユーリを見て、工房主のエムスが説明してくれる。曰く、ユーリが持ち込んだ心材はローゼッドと呼ばれる稀少材である事、堅く丈夫なだけでなく、緻密に目が詰んでいて精緻な細工にも適する上に、磨くと非常に美しい木目が現れる事、加えて魔力の通りが非常に良いため、魔術師の杖を始めとする魔道具の素材としても重要である事、にも(かか)わらず出回っている数が非常に少ないので、端切れでも皆が争うように求める事……



「……え? じゃあ、コレは……?」

「文字どおり、宝の山だな。坊やに金貨百五十枚を支払っても、充分以上の儲けが出る」



 ……堅く燃えにくい材だから、寝る前に適量を(かまど)に突っ込んでおけば朝まで(くすぶ)っている。……夜間の暖房代わりに使おうとしたのは(まず)かったか?

 黙っておこうと密かに決めたユーリであったが、そんな表情の動きなど目に入らない様子で――



「……いや、そんな事より、ローゼッドの心材を心置き無く使って仕事ができるなんざ、一生に一度有るか無いか。(もう)()()(ぼく)()(どん)()の花か、寿限無寿限無五劫の擦り切れ……」

「いえ……ですから、まだ何本かは……」

「……放って置きたまえ、ユーリ君。聞こえてはいないよ……」



 やがて――どうにか落ち着いた様子のエムスに、自分の事を触れ廻らないように口止めを済ませると、ユーリは自分の用事に取りかかった。



・・・・・・・・



木挽(こび)きの現場を見たい? それくらいなら構わないが……?」



 不得要領な顔のエムスに、ユーリは自分の事情を――簡単に、若干脚色して――説明していく。山奥に住んでいるため、木自体の入手はともかく、それを()いて材木にするのが難しいのだと。



「……つってもなぁ……(おお)()とか、結構特殊な道具を使うし……素人の、まして子供にできるこっちゃねぇぞ?」

「あ、いえ、さすがに年季の入った職人さんたちと同じ事ができるなどと、思い上がった事は考えていません。ただ、少しでも参考になる事は無いか知りたくて。どうせなら腕の良い職人さんの仕事ぶりが見たいと、アドンさんにご無理をお願いしたんです」

「お、おぉ……そういう事かよ」



 〝年季の入った〟〝腕の良い〟という形容詞が奏功したのか、年端もゆかないユーリが上目遣いにお願いしたのが良かったのか……ともかく、エムスは丸太から木材を()く現場を見せてくれて、簡単なコツまで教えてくれた。

 風魔法のウィンドカッターで結構な太さの木まで伐り倒すユーリであったが、伐り倒した丸太をきちんと角材や板材にするのは難しかった。どうしても真っ直ぐに切断できず、途中で曲がってしまうのである。

 どこが悪いのかアドバイスを貰えないか、駄目なら板を買って帰るか……と考えていたユーリであったが、エムスの作業を見ながら解説を聞いているうちに、自分が思い違いをしていた事に気が付いた。



(ウィンドカッターの威力を上げて、勢いとスピードで切断しようとしてたんだけど……)



 生前の記憶から、高速回転する丸鋸(まるのこ)のイメージに囚われていたのが災いしたらしい。なまじ勢いがあるだけに、力の方向を制御するのが難しかったようだ。



(別に、人力で()(のこぎり)でも木材は切れるんだよね……)



 なら、いっそ無属性魔法で刃を形成して、それを動かすような感じで切る事はできないだろうか。念力(サイコキネシス)のような感じで物体を動かす事はできるし、衝撃を与える事もできる。なら、魔法の刃を作って切断する事もできるんじゃないか? スピードや勢いは、必ずしも木材の切断に必要ではないようだし……


 それで上手くいくかどうかは判らないが、とりあえずの方針は決まった。あとは「村」に帰ってからの事だ。……一応、角材と板材は幾らか買っておこう。



・・・・・・・・



「……にしても、物凄い値段が付いたんですけど……」



 小市民らしく、ブルジョアなお値段に引き気味のユーリに向かって、何の気無しにアドンは告げる。値段はともかく、鉛筆の反応も似たようなものになる筈だと。


 面倒事の臭いを嗅ぎ取ったユーリが、思い切りよく鉛筆の製法をアドンに譲り渡したのは、その直後の事だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 100話!おめでとうございます!!
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