ある春の日の午後
ある春の日の午後、高校1年になった蓮二は、頬杖ついて窓の外を眺めていた。
教室の窓は、麗らかな陽気の為、開け放たれ、時折吹き込んでくるそよ風が白いカーテンを揺らしていた。
教室内では教師がスラスラと黒板に英語で何かを書き込んでいた。
蓮二は、剣道部に置いて初めてレギュラーとして試合に臨む明日の試合の事で頭が一杯だった。
対戦相手の得意技は知っている。相手をどう攻略するか、どう先手をとるか。
いろんなパターンを考えるがどうにも考えが纏まらない。
そんな時、1匹のてんとう虫が蓮二の机の上に飛んできて、着地した。
蓮二は無意識に鉛筆の先でてんとう虫をつついてみた。
てんとう虫は促される様に鉛筆を登って来た・・・。
頂上まで来ると、そのまま下に向かって行って、鉛筆の先から机の上に落下した。
落下した弾みにひっくり返ったてんとう虫は、手足をバタつかせ必死に起き上がろうと藻掻いていた。
何でもないてんとう虫の行動に可笑しさを覚え、先ほどまで明日の試合の事で頭が一杯だった事も忘れて、ひっくり返ってもがいているてんとう虫を助けようと鉛筆の先を使い優しく起き上がれる様に促した。
何度も鉛筆の先に足を掛けて起き上がろうとするが、うまく行かなかった。
手を使って助ければ良いのに蓮二はそうしなかった。
自然界でも普通に起きる出来事なのに自力で起きれない訳はない。
そう考えて放置していたのである。
ジタバタもがいているうちに、足の一つが木の机を探し当て、尖った爪先が木の繊維をとらえて体を起こす事に成功した。
暫く動かずにじっとしていると、窓から微かに風が流れ込んできた。
その刹那、てんとう虫は羽を一杯に広げ風を掴んで飛び立った。
飛び立ったてんとう虫は教室の窓を抜けた。
蓮二は飛び去るてんとう虫を見送った。
【飛び去るてんとう虫の先には、咲き誇る菜の花畑が広がっていた】
我に返った蓮二は、あれこれ悩んでも仕方が無いと思い直して黒板に書かれている内容をノートに写し出した・・・・・・。