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シーナリーエッセイ集  作者: 由木 ひろ
14/23

都会のオアシス

 木村哲也きむらてつや28才独身の一人暮らし。

 今日はいつもより少し早く仕事が早く片付いた、といってもすでに時計は午後8時を回っている。

 帰宅のバスは、朝の通勤に比べてとても空いている。

 俺の働いている出版業界は締め切りの関係で深夜残業も珍しくない。

 入社した頃は期待に胸を膨らませてバリバリ働いていたのだが、最近では、その情熱も失せ、少しでも早く仕事を終わらせて帰って眠りに付きたい。


 バスを降りて我がボロアパートに向け歩き出す。

 我が家は住宅地を抜けた奥まった場所にある。


 いつもの帰り道だが今日は久しぶりに早く仕事を終わらせる事が出来たのでなんだか気分が良い。

 歩き始めてしばらくすると住宅街に入る。

 夕食を終えた時間帯なのだろうか、各家を通り過ぎる度に良い匂いがしてくる。

 この家は、今日はカレーだな・・・

 暫く進むと今度は焼き魚の匂い。その先の家は甘い酒が絡んだ醤油の匂い、煮つけかな?

 各家から漏れている夕食の匂いから、勝手に献立当てゲームをしながら歩いていた。


 ある家からは、シャワーを浴びているのか水の音と共に子供の声が漏れて来る。

 親と一緒にお風呂を楽しんでいるのだろう。

 温かい家庭のひと時・・・

 仕事に追われ、家に帰って寝るだけの生活を送る俺には無縁の世界。我に返るとため息が出る。


 住宅街を抜けるとやや大きな公園が有る、公園の前にある自動販売機でコーヒーを買い公園のベンチに座る。

 家までもう少しなんだが、今日は余裕が有るのか、人気の無い公園で一息入れる。


 公園の前には大きな団地が並んでおり、俺の座っているベンチからは、その団地のベランダ側が見渡せる。

 コーヒーを大きく一口飲み、一息入れる。

 目線を上げ団地を見渡すと各家ともカーテンから明かりがもれており、留守の家は少ないようだ。

 何気なくその景色を見ていると一つ二つオレンジの光が点滅しているのに気づく。

 俺はポケットから煙草を取り出し火を付ける。


【タバコを吸うと暗闇の中、オレンジの光が明るく光る。それに呼応するかの様に団地のベランダから二つ、三つとオレンジの光が帰ってくる】


 いつしか俺は、故郷で子供の頃に里山で行った”蛍狩り”を思い出していた。

 故郷を離れ、都会で生活しているうちに、自然と接する機会は無くなっていった。


 今度休みを取って、久しぶりに故郷に帰り、母親に顔でも見せてやるか・・・

 タバコの火を消し自宅を目指す。

 小さいけれど、がんばれる目標が出来た、ある日の帰宅時の出来事である・・・。


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