story01
「しょちょー!今日のお店決めましたよ!」
「さっすがレイコさん仕事早い!」
携帯を片手で閉じるレイコに擦り寄る萩野。
そんな彼を、
「アンタがナナちゃんに浮かれて放り出すからでしょ!」
レイコは額を平手で引っぱたいた。
あまりの痛さに蹲る萩野を指差し、
「え〜!叩かれてやんの!」
「ユウヤ。お前……」
「いっ!?」
ケラケラ笑うユウヤは今しがた逃げろと脳内にサイレンが鳴った。
「おたすけぇ!!!」
逃げ惑うユウヤを追い回す。
「お前今日もしばいたる!!」
怒り心頭の萩野。
そんな彼らを、
「アケミちゃん。何か壊れたら2人の給与から差っぴいてね」
「アイアイサー」
「あっはっは!」
皆は傍観して嵐が落ち着くのを暫く待った。
「館野さん。冷たいお茶いりますか?」
「え、あ……」
騒がしいのを他所に、館野にペットボトルのお茶を差し出すナナコだったが、
「俺、ちょっと外の空気吸ってくるから」
「あ、それじゃ私も」
オフィスから出て行くのを付いてこようとするナナコに向かって掌をかざし、
「ゴメンね。ちょっと一人になりたいんだ」
「……ごめんなさい」
「いや、謝らないで」
どうせすぐ戻るから。と、館野は笑って何故かカバンを手にしてオフィスから出て行った。
そんな館野を見つめるナナコに、
「恋する乙女は切ないのぉ」
「え!?」
「いいわよねぇ、館野クン。今時見ないサラブレッドよあれは」
「いえ、私は!」
レイコとアケミがそっと耳打ちしてきて慌てふためくナナコの頬は、ほんのり桜色。
「何々?何の話?」
「ハギヤンはタテノンに遠くおよばへんて話や」
「何おう!これでも俺と館野は司法修習期間中一、二を争った……」
「でもいっつも館野クンが一番だったんでしょ?」
「はいはいそうです。ついでに腕っ節もナリでかい俺より強いっすよぉ」
掌を口に宛がい悲観にくれる萩野からそっと離れ、
「レイコさぁん」
「はいはいユウちゃんよしよし」
ユウヤはレイコにしがみ付いてすすり泣いた。
「それにしてもソウシはカバン持ってどこ行ったんだろうなぁ」
所長の何気ない疑問に、
「……時々あるけど、何だろう」
唯一耳を傾けたナナコはまた館野が出て行った扉をぼーっと眺めた。