story01
「ただいま戻りました」
部屋と廊下を繋ぐドアから聞こえてきた愛らしい声に、皆が一斉に振り返ると声のイメージそのままの、笑顔の清楚な若き女性と、
「あぁ……ちょっと買い過ぎだって」
その後ろで何やらいっぱい詰め込まれたスーパーのビニール袋を両手に抱える青年がうな垂れていた。
「お!なっなこちゃーん!」
「うをっ!?」
勢いよく立ち上がり、女性に駆け寄る萩野に突き飛ばされたアケミは、
「来月の給与覚悟しときー!?」
と、叫ぶもお構いなしに萩野はナナコと呼んだ女性の手を取り、自分の胸元で握り締めた。
「暑かっただろ?ナナコちゃん。俺を探してくれれば車で付いていったものの」
「お気遣いありがとうございます。ユウヤ君が付き添ってくださったので」
そう言ってにっこり微笑えみ、萩野の手を振り解いたナナコはユウヤから袋をひとつ取り上げ皆に駆け寄った。
「頑張ったのはオレっすよぉ……」
「黙れクソガキ」
萩野は舌打ちしてユウヤから残りの袋をぶんだくると彼を放ってさっさとナナコの後を追った。
そんな後姿を眺めながら、
「オレって不憫……」
ユウヤはまたがっくりうな垂れ尊大なため息をついた。
庶務の松橋 ナナコ。
「お疲れ様です館野さん」
柔和温順。癒し系の電話対応ウグイス嬢。
ヤマベンの華。彼女に憧れる男は数知れずな独身。
バイトで法学部生の勝木 ユウヤ。
「ちょっとー!誰かオレも労ってくださいよ!!」
猪突猛進。こちらは愛玩具系の弁護士志望の大学生。
ヤマベンのマスコット。常に皆に弄られてます。