「守ってあげたくなるタイプっているよね?」
『忍者』と書かれた教室の中で一人の男がうっとりした表情を浮かべ本を見ている。
きりっとした表情をしたかと思えば『ドーモ、下忍デス』とか言ってまたにやにやしている。
口上の練習のようだ・・・
本棚にはずらりと忍者関連の本が並んでいる、あの拘りさえなければ佐賀根くんに負けて無いのに・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コンコンとノックの音がし俺は忍者の本を隠し落ち着いた声で何か用か?と聞く、内心バックバクであるが表情には出さない・・・
「邪魔するわよ」「邪魔するんやったら帰ってー」「ハイハイってなんでやねん」
一連の掛け合いをして女が入ってきた、鍛冶をやってる変わり者で・・・こいつ名前なんだっけ?長い事鍛冶としか読んでないから忘れてしまった・・・
「顔に出てるわよ、鍛冶やってる梶なんだから覚えやすいでしょうに・・・」
「・・・で何のようだ?」
「ふぅ~ん、そんな事言っちゃうんだ、じゃあ特注手裏剣は要らないわね?」
「いる!要るんだ!梶様申し訳ございません」
受け取ったのは一枚の盾のような物、しかしここをこうすると『ガシャン!』と刃が出てきて巨大手裏剣に変わるのだ、う~んなかなかの業物だ。
「うっとりしてないで、残りはこれよ、時間が無くて3つしかできてないけどいいよね?・・・ってトリップして聞いてないわね・・・」
は!しまったあまりにも理想通りの巨大手裏剣に我を忘れていた、いかんいかんこんなことではせっかくこっそり作っておいた滅・忍の頬当てを付ける日は遠そうだ。
ぉ?召喚の気配、一瞬で黒装束に変わり、召喚に備える・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「拙者、下忍と申す」
「アッハイ」
どうやら今回は普通の召喚のようだ謁見も無事に済みいつも通り少々ちょろまかし一市民として紛れて情報収集を行う。
酒場での話では新たな魔王が登場し魔物が活気づいており、軍や冒険者の手も足りないと言う事らしい、魔王は百年に一度生まれ早めに倒せば百年近く平和が続くと言うらしい・・・
早速魔王城に潜入するが魔王っぽい部屋が無い・・・謁見の間に忍び込み魔王の顔を拝んでから行動しよう・・・
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おっといかん寝てた・・・みんな集まってるな魔王は・・・『狂戦士』よりも小さい子が王座に座っていた、様子を伺う限りではほとんどの事を隣のおっさんが偉そうに指示していた、偉そうじゃなくて偉いのかな?
魔王はと言うとおろおろしたり俯いたりしてまるっきり傀儡だな、さて困った、あの幼い魔王を打ち取っても隣に居たおっさんが『魔王様の敵』とか言って戦争おっぱじめるだろう、両方居なくなるのが一番手っ取り早そうだが、なんて言ったらいいの?ガキには手を掛けたくない・・・(凶華は除く)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あんたが魔王さんかい?」
ピンクのフリフリのついたベッドに可愛いぬいぐるみがいっぱい並ぶ中魔王は目を覚ました。
男装だったのか・・・ちっさい女の子かぁ・・・やりにくいな。
「勇者が召喚されたと聞きましたが思ってたよりずっと来るのが早いんですね、抵抗はしませんからこの首を持って行ってください・・・」
「できるくわあああああああああああああ!」
「ふぇ・・・」
クールダウンし魔王とゆっくり話す、少しずつだがこの世界の魔王ルールが分かってきた、魔王とは称号であり一番強いとは限らない、百年に一度魔族の中で紋章が浮かんだものが魔王となると言う事だ。
彼女は元々魔族の村で暮らしていた商人の娘だったが紋章が出て魔王になってしまったらしい、魔公爵と呼ばれる人が政治の事をやってくれてはいるが人を殺せとか人は殲滅だとか言ってるのを聞くと哀しくなってしまうそうだ。
あ~・・・これ超めんどくさい奴だ過激派の頭飛ばしても穏健派が頭にならないと軍部が暴走しかねない・・・軍は滅殺でもいいかと言うとそうもいかない理由ができた、魔王が生まれて魔物が凶暴化するわけでは無く魔物自体が百年に一度暴走するものなんだそうな・・・軍が居なくなると迷惑するのは暴走してる魔物に襲われる一般魔族だ・・・
その後魔王ちゃん(魔王に成ったら元の名を言ってはいけないらしい)から穏健派を聞いてそっちと話しをすると伝え部屋を出た・・・
「あー超疲れた」
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「招かれざる客人、魔公爵の手の物か?」
「忍者で魔王ちゃんの味方だ」
「ふむ、儂では勝てそうにないな、魔王ぷぷっ、魔王ちゃんか・・・其れで儂に何のようだ?」
「来た理由は二つ、過激派のどこまで居なくなればあんたが魔王ちゃんの手伝いが出来るか、それであんたは人間の国をどうしたいかだ」
「何故そんなことをする、人間の勇者ならば魔王を討って仕舞いだろう?」
「んなもん侵入者が来て怖いのに震えながら黙って討たれようとする女の子をお前は切れるのか?」
「出来るわけが無かろう、それに人間国とは九十年近くかけてやっと良い関係を築いてきたのに何故それをぶち壊さねばならんのだ?」
「わかった、それで魔公爵とやらが居なくなれば、お前さんは軍を押さえられるか?」
「魔公爵とあとは将軍のフェニックスが居なくなれば何とか・・・」
「またフェニックスかよ!うわぁ面倒臭い・・・」
「面倒臭いと言われても・・・」
「どうせあれだろ?首跳ねても即復活して襲い掛かってくる奴なんだろう?封印で何とかならねぇ?」
「何を言っているんだお前は、そんなすぐ復活するフェニックスなど居らん、灰になり三年後に雛となって復活するのがフェニックスだろうが」
「じゃあ楽勝だな、今からサクッとやってくるから後始末頼んだぞ」
「まて、そのまま誰がやったか分からんようでは儂が疑われ失脚の恐れがある、そうだな・・・なんか分かりやすく勇者がやったと思わせることが出来ればよいのだが・・・」
「(ニヤリ)分かった、勇者っぽくやっとけばいいんだな」
と言って黒装束の男は闇に消えて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、魔公爵とフェニックス将軍の惨殺死体が発見される、壁には大きな文字で『勇者参上!』と書かれてあった。
もちろん財産などがきれいに無くなっていたが『勇者だからしょうがないだろう』の一言で片付けられた。
勇者が人間国で召喚されたと言う話は魔族内で伝わっていたが、なぜ魔王ではなかったのかという噂が流れたが穏健派が政権を握り軍が落ち着いたころには、二人の被害者の事を考える魔族は居なくなった、自分の暮らしに影響が無ければ市民なんてそんなものである。
魔王城、謁見の間で黒装束の男と少女が話している、周りにはだれもおらず二人きりであった
「んじゃ魔王ちゃん人間国と仲良くしてやってね、俺は報告に戻るから」
そう言い残し忍者は魔王の元から姿を消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお勇者よ「忍者だ」・・・おお忍者よ、よくこの国に平和をもたらしてくれた、ところで魔族からの和平の所に魔王の名前があるんだが?何故魔王の首を持ってこないのだ?」
「正座!」
「は?」
「良いから正座して話をよく聞け、お前は魔王ちゃんの姿を見たことはあるのか?あんたの娘と同じくらいのちみっちゃい子が勇者が現れたと知って震えながら首を差し出したんだぞ、お前はその首が切れるのか?お前の娘に同じことができるのか?」
「しかし」
「良いから黙って聞け、王冠でハゲ隠してるのばらすぞ、過激派のトップが居なくなり和平の道もできてる、いったい何の問題があるのか言ってみろ」
「魔物の被害が減っておらんではないか、これは魔王が操ってるに違いない!」
「魔物は魔族の村も平等に襲ってるのに何言ってるんだお前は?魔物は百年に一回暴走するそういう生き物なんだよ、何被害者ぶってるんだこのハゲは、大体百年サイクルでまわって来る被害が分かってるのに弱兵しかいないのはお前の怠慢じゃねーのか?何とか言ってみろハゲ!」
「うぐぐ・・・」
「まああれだ、きちんと言い伝えて書物にも残しとけ、後九十九年でまた兵が弱いまま俺召喚したらこの国から亡びると思え!『狂戦士』送りつけるぞゴルア!」
「わ・・・分かりました仰る通りに致します」
「OKOK,そっちのお姫様名前はなんていうのかな?出来れば魔王ちゃんと友達になってくれるとうれしい」
「王女のカリンでしゅ」
「(噛んだ・・・可愛いから許す!)そっか魔王ちゃんは魔王ちゃんと呼んであげるといいよ」
「はいっ」
「んじゃ俺はお役御免だな、ちゃんと百年後に備えろよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「拙者、下忍と申す」
「あら、カリンおばあさまの言った通り黒い服を着た人が来たわ、成功よ」
「・・・魔王の復活で魔物の暴走ですか?」
「よくご存じで、百年前の記録とか残ってなくて難儀したのですよ、今回は魔王フェニックスが軍を率いて攻めてきているもので勇者様に御すがりするしかないと・・・」
「またフェニックスかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!あときちんと残しとけっていったろうハゲえええええええ」
とぅーびぃーこんてにゅー