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お昼の出来事





 そんなこんなで、現在に至る。

 変な夢を見たのも、普段なら気にしないことを気にしたのも、全部ミズキのせいなのであった。したがって彼にはちょこっとした罰を与えることとする。

 とは言っても、それは別に無理難題だとか、私刑リンチでは決してない。

 ならばそれは何なのか、というと――。


「ねぇ、マコちゃん。本当にいいの? 買い出しなんてさせても……」

「いいんだよ。アイツは私の弟子になりたいってんだ。コレくらいいいだろ?」

「う~ん。そうだけど……」


 ――要するに、御用聞きパシリであった。

 午前中の授業も終わり、今は昼休み。クラスの皆は弁当箱を広げたり、談笑したりしていた。そんな中で、私はミズキに命じたのである。「購買で焼きそばパンを買ってこい」、と。まぁ、代金は私の財布からではあったが。


 何故そのようなことを命じたのか。

 その理由は二つある。一つ目は、今ほどカナに言ったように弟子だから、である。これについては、あちらも了承しているので問題ないと思えた。そして二つ目なのだが、私にとってはこちらの方が重要である。それは、こうやって嫌な思いをさせることで、アイツの方から断りを入れてくるのを待つためだった。


 転校初日から使い走りをさせられるのは、精神的にキツいはず。

 それに加えて私の見立てでは、アイツの根性は脆弱なモノであった。なにせ『男の中の男』を目指すと口にして、直後にあの超絶乙女的行為である。つまるところ、父親に言われたからそうしようとしているだけで、本音の部分では変わりたいとは思ってない。そういうことだった。


 ならば、これで気が変わるはずだ。

 私は晴れて奴の呪縛から解き放たれ、平穏無事なスクールライフを手にする。

 昼飯抜きになるのは癪ではあったが、これも互いのため。アイツもアイツで、自分と向き合うことが出来るのだから悪くないと思えた。


「よし。とりあえず、これで一件落ちゃ――」


 そんなワケで、私は机に突っ伏す。

 飯抜きなら、体力の消耗を抑えた方がいいだろう。要するに、寝るのである。そして、ある種の勝利宣言を口にしようとした――その時であった。


「――ただいま戻りました! 師匠せんせい!!」

「あ、ミズキくん。お帰り~」

「…………」


 ミズキの、快活な声が教室内に響き渡ったのは。

 カナが暢気のんきにそれを出迎え、私はぞっとした気持ちで面を上げた。そして、周囲からは大きなどよめきが起こる。その理由は、私も見た瞬間に分かった。

 何故なら――。


「お前。なんだよ、それ……」

「師匠を喜ばそうと思いまして。これはもちろん、ボクのお金で!」


 ――両手いっぱいに、総菜パンを抱えていたのだから。

 焼きそばパンだけでいいと、そう言ったのに。彼の腕の中にはサンドウィッチや、菓子パン、それにあれは伝説のカツ丼パンじゃないか? 午前中には売り切れるのに、どうやって手に入れたのか……。

 い、いや。そんなことよりも、今の問題はそんなことではない!


「お、おい。近衛が転校生からカツアゲしてるぞ……」

「前からおっかないとは思ってたけど、やっぱりそういう奴なのか?」


 な、なにかを勘違いされている!?

 みんな違うからな! ていうか誰だ、おっかないとか言ったの! 斉藤か!


「いや、それにしても。購買って初めてだったので不安でしたけど、皆さん優しい方ばかりでした! すごく丁寧で、焼きそばパンの他にも美味しいモノを教えてくれて。師匠のお口に合うのがどれか分からなかったので、すべて買ってしまいました――よいしょ、っと!」

「……………………」


 ドササササ――――――ッ!

 私の机の上に運ばれる、大量のパンたち。

 カナは壮観、と言った感じに。私は唖然、といった感じにその様子を見つめていた。ミズキは達成感に満ちた様子で、額に浮かんだ汗を拭う。相も変わらずその所作、一つ一つが可愛らしくて何やら腹が立つ。


「さて。それでは、どうぞです! 師匠!!」

「さて――じゃねぇよ! 食い切れるかっての、こんな量!?」


 私は彼の言葉に気を取り戻し、即座にそうツッコみを入れた。

 目算でも十数個はある。こんな量の総菜パン、菓子パンを昼休みの間に食い切れるかと聞かれれば――その答えは、ノーだ。三人でも、なかなかにキツイはず。


 ――どうするんだ、これ……?


「おい、ミズキ。お前、男らしくなるんだろ――半分は、食えよ?」


 とりあえず、コイツに半分は責任を取らせよう。

 そう思って私は、何やら自分の机の中を探っているミズキにそう言った。

 しかし彼はそれを聞いて、明らかに困惑の表情を見せる。そしておもむろに、取り出した小さな小さな箱に視線を落として、こう答えた。


「あの、ボク。そんなに、食べられなくて……」


 可愛らしい装飾の施されたその箱のフタを開けると、あったのは極めて小量な弁当。いわゆるキャラ弁、といえばいいのだろうか。パンダやらウサギやらが綺麗に描かれており、しかしそれだけでなく、どれも美味しそうだ。

 ――というか、コレってもしかして、


「うわぁ、可愛いね! これって、もしかしてミズキくんが?」

「はい、そうです。毎朝、楽しいんですよ♪」

「――――――――」


 やっぱり、コイツの手作りだった!

 私はミズキと出会ってから、もう何度目か分からない絶句をする。

 小食なだけならまだしも、自分で料理を作れて、なおかつそれをキャラ弁にして!? 正直、私なんかといるよりもカナとキャッキャウフフしてた方が違和感ないぞ。本当に男なのか、コイツは……。


 そんな、もう何度目か分からない疑念を抱く私なのであった。


「え……? つーか。じゃあ、このパンを処理するのって……」


 ミズキとカナは、自然とこちらを見た。

 だよな、うん。そうなるよな。


「……あぁ、もう! しゃーねぇな、ったく。食ってやるよ!」


 ここまできて、私は自棄ヤケになっていた。

 そんなこんなで、本日の私は吐きそうな程のパンを平らげることになったのである。だが、それはそれとしてミズキを諦めさせる作戦をまた考えなければ――。









 

 ――おえっぷ。



 


こんな感じでコメディタッチで行くと思います(^_^;)

よろしくお願い致します!!

<(_ _)>

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