アイツからの申し出 1
「なぁんだ! そういうコトだったんだね!」
ホームルーム終了後。
鬼気迫る表情で説明を求めたカナに対して、私はミズキとの出会いを説明した。
それを受けてようやく、彼女は納得したらしい。満面の笑みを浮かべて、私とミズキの間に割って入っていた。その行動の意味は分からないけど、とりあえず誤解が解けてよかった。
何の誤解かって? そりゃ――言わずもがな。
カナは色恋に関して、異常なまでに反応を示すのである。それは自身のこともさることながら、私の色恋にまで首を突っ込んでくるのである。とは言っても、私に告白してくるのは皆、女子生徒ばかりなのだが。
それにさえも、カナは激しいツッコみを入れてくるのであった。
さて。そんな話は置いておいて、である。
目下のところ、問題は別にあるワケであって――。
「師匠! ボクは、まず何をすればいいでしょう!」
「で。この師匠、って言ってるのはどういうこと?」
「……………………」
小首を傾げるカナに、憧れの眼差しを向けてくるミズキ。
私はため息をつき、再び頭を抱えた。その説明もしなければならないのか、と。
まぁ、ここまできてしまったら話してしまった方が楽だろう。そう考えて、私は昨日の出来事、その続きを話し始めるのであった――。
◆◇◆
私達はショッピングモールの中でも、とりわけ人気の少ない場所に移動した。
そして、ひとまず息を整えてからお互いのことを話したのである。名前は互いに語らなかった。だが、そんな当たり障りのない会話の中で、耳を疑ったモノがある。それというのも、
「はぁ!? ――男ぉ!?」
「は、はい。そうなのです……」
この目の前に立つ、美少女としか形容できない人物。
その生物学上の分類が、男である、という事実であった。
ミズキと名乗ったこの少年には、要するに私の兄や弟、そして父と同じモノがついている。つまりはそういうことであった。――いやいや。冗談だろ?
私は一瞬の眩暈を覚え、しかしどうにかその場に踏み止まった。
そして改めて、目の前に立っている少女――否。少年の姿を凝視する。もじもじとしながら、こちらを上目遣いに見つめてくるミズキは、どう見繕っても美少女であった。目が合うと、口元に手をあてながら恥ずかしそうに視線をそらす。
頬は仄かに朱色に染まっていた。
――えー、嘘だろ? これ、ドッキリ?
この言葉が、私の素直な感想であった。
だって、そうだろう? どの角度から見ても、美少女だったのだから。
でも、ここで私に嘘をついたところでこの子には何の利もない。それを考慮したらつまり、そういうことであって。要するにこのミズキは『彼』である、ということで。それってことは、すなわち……。
「――あ、あの!」
「……ん? あぁ、悪ぃ。あまりのコトに混乱してた」
と、頭の中でそんな堂々巡りをしていた時だった。
何やら意を決したように両拳を胸の前で握りしめて、ミズキは私に声をかけてくる。それによってようやく思考の世界から帰ってきた自分は、そう謝罪しながら『彼』に向き直った。すると分かったのは、ミズキがどこか緊張しているということである。
「どうしたんだ? なにか、言いたそうだけど……」
「えっと。あ、あのですね……!」
こちらがその変化について問いかけると、彼は何やら言いよどむ。
というか、怯んでいる、と表現した方がいいだろうか。まるで小動物のように縮こまった美男子は、心なしか小刻みに震えていた。大きな瞳もどことなく潤んでいる。そんな状態で、たっぷり数十秒が経過した。
沈黙。正直、もう放置して帰ろうかとさえ思った。
だがしかし、その瞬間である。ミズキが大声で、こう叫んだのは――。
「ボ、ボクを弟子にしてくださいっ!」――と。
「………………はぁ?」
私は眉間に皺を寄せて一言、そう返したのだった。
何故なら彼の申し出は、あまりに明後日の方向なモノであったのだから――。
更新です!
今回はその1ということで、後半はまた後日。
今日中に上げられたら上げますが、おそらくは明日かな……?w
感想等、お待ちしております!
よろしくお願い致します!!
<(_ _)>