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アイツ――小山瑞樹




 家を出て、全速力で自転車をこぐこと十数分。

 私は自身の通う高校に到着した。校門前にて、腕時計で時刻を確認している教育指導のゴリラ、その前をギリギリで通過する。どうやら今朝も、遅刻は免れたようだ。――うっし、さすが私。


 急ブレーキををかけながら、内心で小さくガッツポーズ。

 だがしかし、ホームルームのチャイムが鳴る前に教室に入らなければそれも無意味。私は駐輪場へ向かう。そして、乱暴に自転車を停めて、校内へと駆けこんだ。

 二年生である私の教室は、階段を上ってすぐ左にある。一段飛ばしに駆け上がって、どうにか予鈴と同時にそこへと滑り込むのであった。


「あっ……おはよう~、マコちゃん!」


 ――と。その時である。

 そんな壮絶な朝の一幕を知ってか知らずか、私にふんわりとした声をかける子がいた。クラスメイト、そして中学時代からの親友である、川相かわい加奈かなだ。

 私と同じ、紺のセーラー服に袖を通した彼女から漂うのは、まさしく女子! という雰囲気。サイドアップにした柔らかい、栗色の髪。くりくりとした、円らな瞳。筋肉質な私とは異なり、頬や手、どこをとっても女の子らしい感触なのであった。


「う~い……おはよ、カナ。はぁ……」


 私は窓際の最後尾である自席に荷物を置きつつ、そう返事をした。

 そして、どっかりと席に腰を下ろし、机に突っ伏す。そうすることで、全身から力が抜けていってくれる。はぁ~……この瞬間が、また心地良いのであった。

 がしかし、である。その姿をカナは許さないのであった。


「もぅ、マコちゃんっ! 脚を閉じて! はしたないよぅ……」

「え~? 別にいいじゃねぇかよ。誰も見てねぇって、私のなんか――」

「――だーめ! そういう問題じゃないよ。マコちゃんは、可愛い女の子なんだよ? ……ほら! あっちで斉藤くんが鼻の下伸ばしてるもんっ!」


 突っ伏しているので、その真偽は不明であったが――遠くから「えっ?」という男子の声が聞こえた。悪いな、斉藤。きっとこれは、カナの口から出たとっさの嘘だ。冤罪であるに違いなかった。


「わーったよ。起きりゃいいんだろ? ったく」


 けれども、そのどちらにせよ、だ。

 カナはその見た目に反して、意外にも頑固な部分がある。というか、こういった『女の子らしさ』という点についてだけは、何があっても譲らないのだ。そんなわけだから、私は大きく背伸びをしてからがっくりと、肩を落とす。そして頬杖をつきながら、隣の席に座る親友の笑顔を見つめるのであった。


「改めて、おはよ! マコちゃん」

「あいあい。おはよー、さん……って、月曜から元気だな」


 すると、カナは再度そう声をかけてくる。

 私はテンションの差を感じて、辟易しながらも何とか返事をした。


「うん! だって、月曜日になればマコちゃんに会えるんだもんっ!」

「あー、はいはい。そういう誤解を招く言い方はいいから……」


 そうしたら今度は、そんな界隈が盛り上がりそうなことを言いだす。

 しかし、そのような趣味もなければ、そのような話題に興味もない私は、軽く受け流した。カナは私の言葉を聞いて不満があるのか、頬を膨らし、唇を突き出した。


「ぶ~っ、つれないなぁ。マコちゃんは――あ、そうだ!」


 そして、しょんぼりとした声を発したかと思えば、


「ニュースだよ、ニュース! 今日このクラスに転校生がやってくるって!」


 次はそんな、ありきたりとも感じる噂話に目を輝かせるのであった。

 私はカナの表情がコロコロと変わるのを見つつ、気付かれないようにため息をつく。まぁ――この手の話題は、普段ならば暇つぶしの種になってくれると思われた。けれども、今日に限っては乗り気になれそうにない。


 ――それもこれも、昨日出会ったアイツのせいだ。


「ん、どうしたの? マコちゃん元気が――って、いけない。先生だ!」


 と、そう考えた時だ。

 担任が気怠そうに、教室に入ってきた。

 それを確認したカナは、「それじゃあ、あとでね」と言ってから自分の席へと戻る。私はようやく一人になれたと思いつつ、窓の外を眺めた。そこからは、いつも通りのグラウンドが見える。


 何の変哲もない、いつも通りの風景。

 夢の中でさえしてしまった自問自答など、馬鹿げたことのように思えてくる。

 あぁ、そうだ。別にアイツ・・・とは、金輪際かかわるコトがないじゃないか。だとすれば、変なことに気を割くのは時間の無駄だと思えた。


 ――うん。これで、いつもの私だ。


「それじゃあ、小山おやまは近衛の隣の席を使ってくれ」

「はい。分かりました」


 さてさて。

 そんな風に気持ちを切り替えていた時だった。

 どうやら知らぬ間に、マジで転校生がやって来ていたらしい。それに加えて、私の隣の席にやってくるときた。――そう言えば、隣の席は空いていたな。


 声からして――女生徒、だろうか?

 やや中性的なそれを響かせた転校生は、静まり返った教室に靴音を響かせながらこっちへ。そして、私の隣にやってくると、こう話しかけてきた。


「えっと、近衛さん? 小山瑞樹みずきです。よろしくお願い致します」


 なんと丁寧な態度であろうか。

 これはきっと、まさしく女の子、といった人物に違いない。

 そう思って、私は外へと投げていた視線をその声の主へと向けて挨拶を――。


「あぁ、よろしく。私は――」


 しようとして、硬直した。

 視線を向けた先。そこには――ブレザー・・・・を身に着けた美少女が、立っていた。

 ハーフなのだろうか。その人物は、緩いウェーブのかかった綺麗な金髪をなびかせる。肩口で切り揃え、やや長い前髪はヘアピンで留めていた。

 瞳の色は蒼く。そして、肌は驚くほどに白かった。


 背丈は私と大差ないか、あるいは少し低いくらい。

 いいや、確実に低い。並ばなくても、私はそれを知っていた。

 何故なら、この小山瑞樹という少年・・と私は、すでに昨日会っている。


 そう。コイツを私は知っていた。

 何故ならコイツこそが、私の心を乱した『アイツ』に他ならなかったから――。


「――あぁっ! まさか、ここでお会いできるなんて!!」


 瑞樹アイツは、まるで運命を神に感謝するように手を組み、涙ぐんだ。

 そして、次いで私に向かってこう言ったのだった。



「お会いしたかったです。師匠せんせい!」――と。



 私は青ざめた。

 何故なら、この『再会』は絶望でしかなかったから。

 しかしもう、この現実は変えようがなくって。頭を抱えるしかなかった。


「これから、よろしくお願いしますね! 師匠!!」


 瑞樹は私の手を取って、キラキラとした乙女にしか見えない笑顔を向けてくる。

 何やら遠くでカナが叫んでいたが、それを聞き分けるほどの余裕はなかった。だって私の中では、コイツとの出会い。すなわち昨日の出来事が、走馬灯のように思い出されていたのだから。



 ――あぁ、ここまできたら逃げようがない。それでは、みんなにも説明するとしよう。私とこの、小山瑞樹オトメンの出会いのキッカケとなった事件のことを――。





ここまでがオープニング。

次からが、本格的なお話になってきます。

もしよろしければ、ブクマ等、よろしくお願い致します!!

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