原風景
――幼い頃。私は、弱かった。
いつもいじめられて、隅っこで泣いていた。
それはその日も同じだった。私はイジメっ子たちに囲まれて、膝を抱えて小さくなる。あまり反抗しては、余計に面白がって手を出してくる。それが分かってるから、私はただ耐えていた。こうしていれば、いつかは終わってくれるから。
でも、その日は違った。
イジメっ子たちは、調子に乗っていたのである。
考えてもみなかった。抵抗しないことが、その行いを受け入れているように見えるなんて。つまり私は下手を打っていたのだった。
相手は三人。
そのうちの一人が、私の顔を目がけて足の裏を押し付けてきた。
あぁ、痛い。痛くて、苦しくて、辛かった。悔しくて、悔しくて仕方ない。肉体的な痛みよりも、精神的な痛みの方が強かった。どうして自分は弱いのか、と。
でも、それは仕方のないことだった。
こうなってしまえば、もうどうにもできないから。
私はずっと、きっとこのまま、弱いままで生きていくんだろう。
『うっ……』
そう思ったら、涙が出てきた。
そして、ついに声を上げてしまいそうになった。その時だった。
『やっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉお―――――――――っ!』
そんな声が、響いたのは。
声の主は一人の女の子。可憐な、たんぽぽみたいな髪の色をした彼女は、イジメっ子のうちの一人に体当たりをした。突然のことに、三人は散り散りになる。
その隙にその子は、私の守るように間に立っていた。
小さな背中に、細い腕。加えて、可愛らしい声。
顔は分からなかったけれど、その子はきっと私と同じ側なのだと思った。
『この子のことをいじめるな!』
それなのに、その子はそう声を張り上げる。
イジメっ子たちは少しだけ困惑したような表情を浮かべたが、すぐにお腹を抱えて笑い始めた。どうやら自分たちの方が強いと、そう分かったらしい。
すぐに、その子のコトを取り囲むのであった。そして――。
――結果は、分かりきっていたことだった。
それでもイジメっ子たちは驚いていた。何度倒れても、何度倒れても、その子は必ず立ち上がったのだから。足が震えていても、肩がゆれていても。その子は最後まで立っていたのだから。
そんな彼女の後ろ姿を見て、私は思ったんだ。
いつか自分も、こんな風に強くなりたい、と。
そしていつの日か、この子のコトも守れるような、そんな人になりたい――と。
それが私の原風景。
絶対に強くなろうと、そう誓った出来事であった。