雪合戦
景色を一面に覆う雪。どこまでも真っ白なそれは、きめ細かい綿毛のようであった。しんしんと天から降り注ぐ粉雪と分厚い灰色の雲は、何処までも静けさを醸し出したいた。
一方、とある小学校の校庭は、暑苦しい熱気で包まれていた。
「とおぉぉぉぉりゃぁぁぁああああ!」
ソフトボールくらいの玉が投射角度ほぼゼロに等しい位置から投げられ、空気抵抗をも無視してターゲットに直撃した。そこを支点に体がくの字に曲がり、目の前の人物――タクはそのまま粉雪のクッションに倒れ込んだ。
「痛ってーな」
私は仁王立ちして彼が起きあがるのを待った。期待通りの反応だ。
「何満足そうな顔してんだよ、種田。それに、この雪玉は何だ。堅すぎるだろ」
ジャージに付いた雪を振り払いながら、タクは私を睨み付けた。
そう。私の作った雪玉は、単なる雪玉ではない。粉雪の特性を生かし、小さな玉に見えるようで、実際は大量の雪が圧縮され、高密度に固まっているという代物なのだ。
「どんだけがちがちなんだ。当たり所が悪かったら怪我するだろ」
「ハンデよ、ハンデ。腕力の弱い女子と無駄に強く投げてくる男子との対戦なんだから」
私は自分の後方を指さし、ニタリと笑う。そこでは雪玉作り専門の女子が、黙々と真っ白な玉を作り出していた。タクは目を見開きながら製造方法を見ようとする。
「雪玉を作るのに、全体重をかけてまでやるのか?」
「失礼ね。ただ心肺蘇生法のうち、圧迫胸骨のやり方から圧縮方法を編み出したまでよ。腕力だけではぼろぼろで脆い雪玉しか作れないしー」
彼は軽く溜息をついた。
「言わせてもらうが、さっきお前が投げた雪玉はスピードが速すぎたぞ。女子の腕力が男子に劣るというのは一概に言えないのでは?」
私は咳払いをした。
「速度が出せることに関しては、腕力のみとは一概には言えないわ。体全体の筋肉と、遠心力を使っているんだもの」
もう一度満足げに鼻を高くすると、彼はふてくされた顔になった。彼はしゃがみ込み、そして。
「ふぎゃっ」
彼の手によって一発投げられた雪玉が、私の右肩に当たった。
「理屈ばっかりだな。でも、俺たち男子はそんな製造工場みたいなのは作んないから。ほら、みんなやるぞ」
瞬間、飛んでいる途中に崩壊してしまい、最早雪玉とは言えない代物が四方八方から私を襲い始めた。雪が飛び散る。歪な形のそれはまるで地上にたどり着けなかった隕石のように砕け散る。攻撃を受けたのは私だけではない。近くにいた女子軍にまでそれは及んだ。
「押されてる!? 早く投げてっ」
大量生産された雪玉を無造作に取り、反撃。しかし、雪が圧縮されているせいか重量が大きくなり、投げる効率が男子よりも劣ってしまっている。速度はあっても、避けられると元も子もない。
私が欠点を見つけたとき、目前に真っ白に砕け散った物が迫ってくるところだった。
「――ぎゃぁぁぁあああ!」
結果。惨敗。
「男子に負けるとかあり得ない!」
私を含む、全身雪まみれになった女子ら皆で叫んだ。向こうから優越感に満ちた男子たちがやってくる。
「何グチグチ言ってんだよ、女子ども。潔く負けを認めたらどうだ」
負けた相手に遠慮無く威張る男子らに腹が立たないわけがない。でも、言い返す言葉なんて、何もなかった。
「はいはーい、昼休みは終わりですよー」
校舎側から先生の声が聞こえてくる。
「あれ、女子のみんなはどうして座り込んでいるのかな?」
先生は校庭を見渡して、事態を察したようだった。
「雪合戦で男子にでも負けたのかな?」
私たちはますます俯き、タクたちはますます口角をあげる。先生は元気のいい子供たちを見て、微笑ましそうに頬を緩めた。
「まぁ、雪合戦に勝敗なんてものは無いでしょうけれど」
「「えっ!?」」
女子男子共に、目を大きく見開く。先生に悪気はなかったのか、彼女は微笑んだまま表情を崩さない。
私は服や髪についた雪を払い、遠い目で先生を見据えた。
それは、言っちゃあいけない奴だ。
どうも、鏡春哉です。
最後まで読んでくださった方、はたまたこれから読もうとしてくださっている方、どうもありがとうございます。
この作品は初め短編小説として投稿していたのですが、話数が増えてきたため、急遽連載に変更することに。
気楽に読んでいただけたら幸いです。