第1話その2 宮守知咲の高校デビュー その2
入学初日は簡単な自己紹介と次の日の学力テストについての説明があった。範囲は中学の国数理社英の五つで二日に分けて行われることとなった。
肝心な自己紹介だが、Twitterである程度の認知はしてもらってたらしく、すんなりと言うことが出来た。
しかし問題なのはその前にいた楓だった。
出身地はと質問され、そこからべらべらと広島について語り始めたがすごい早口な上に方言を入り交えて話すので全員が頭に『???』を浮かべて聞いていた。
このままではまずいと思い、私が『タイムアップでーす』とフォローした。皆が大爆笑し、結果オーライかとホッとして、どっと疲れが出た。
「さて、今日はここまでだ。ないとは思うが明日と明後日のテストでつまづくなよ。できない人は耳と目を閉じ口つぐんで孤独に暮らせ、以上」
先生が不穏すぎる言葉発した後に皆がそれぞれ荷物をまとめながら教室を出ていく。私も荷物を入れ帰ろうとした時に楓が肩をとんと叩きながら話しかけてきた。
「知咲っちー!帰ろうで!」
「いつの間にあだ名ができてるし……」
「構わんじゃろぉ!知咲っちもわしの事なんでも読んでもらって構わんけ!」
「分かった分かった」「わかったは1回じゃ!」「ハイ」
歩きながら何を話そうかと考えていると楓のスマホの待受に中学のメンバーと思われるのが写っていた。
「部活は何やっとったん?そのスマホの写真から見る感じ野球部だけど」
「せや、わしは野球部所属じゃったわ」
「へえ、マネージャーしてたんだ」
「いや、選手やった」
「ええ!女子が!」
「するわ!わしにとって野球はポリシーであり、人生哲学じゃ!」
どこかで聞いたことある広島都市伝説。そこに住む人の大抵は野球ファンであり、情熱を持つと言う。まさにそれにピッタシだった。勿論、批判してるわけじゃない。
そこからバスに乗って広島の野球の歴史について何10分か聞く事にした。やはり早口なのは相変わらずなようで身振り手振りをかましながらどれだけ凄いのかという事を話していた。
「ということでな、長ーい歴史というもんがあってだな……」
「そう言えば思ったんだけど楓ちゃんってどこ住み?」
「わしは五条町じゃ!」
「え、五条町?」「せや、知り合いがおるんか?」
「もう数分前に通り過ぎたけど、そこ」
「「…………………………………………」」
「はよ言え!」「今知ったわ!」
「運転手さん!そこ止めてくれ!」
「えぇえぇええぇ!!!!!?」
運転手が慌ててバスを止め、楓は慌ててバッグを持って出入口のドアへ行き、手を振って言った。
「じゃ、じゃあな!また明日じゃ!」
「ばいばーい」
ドアが閉まってふうとひと段落つけたところで楓ちゃんはなんかうまく行けそうな気がすると思いながら麹が丘に着くまでずっと考えていた。