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とある異世界転生者のアンダースロー  作者: 村山良朝
アンダースローと99点分の重み
18/30

第十七話

 ラフレッチェへ着くころには、俺はへろへろとなっていた。


「すぐに登板なんだから、ほら、着替えて。早く」


 球場のすぐそばにペガサスを降ろし、俺の手を掴んで彼女は猛ダッシュ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」


 背に抱えている荷物を跳ねさせながら、俺は悲鳴を上げる。


「プロになりたいんでしょうが。泣き言言うな!」

「確かにそうだけど」


 お姫様というのは、もっとお淑やかなものじゃないのか。

 球場の中に入り、ずんずんと進んでいき、ロッカールームへと俺を押し込む。


「はい、これ、ユニフォーム、スパイク……グラブは持って来た?」

「いや、えっと、貸していただけないでしょうか?」

「あるじゃないの。ここに」


 勝手に俺の荷物をまさぐって、あの恥ずかしいグラブを取りだした。やりたい放題かこの人。


「いや、えっと。それは」

「何度も言わせないで。時間がないの」


 ああ、はい……そうですか。


「あの、出て行かないんですか?」


 ユニフォームに着替えようと自分の服を脱ごうとしているのに、彼女がロッカールームから出て行かないので、俺は声をかけた。

 彼女は嘆息する。


「あのねえ? あんたの裸を見て、あたしに何の不都合があるわけ? 逆ならともかく」


 やりたい放題だこの人。


 いや、王族ってのは、こういうもんなのかもしれないけどさ。


 ……まあ、別に、恥ずかしいってわけじゃないけど。

 俺はともかく、ユニフォームに着替えた。あれ? でもラフレッチェのユニフォームって、紫じゃなかったっけ……? これは、どう見ても青なんだけど。

 しかもユニフォームに書かれてあるのは、えっとハイペリオン? なんというか……言葉の意味が分からないけど、すごく格好いい言葉だと思う。


「なにぐずぐずしてんの。ほら、行くわよ!」


 と手を引かれて、俺は球場の中に入った。

 そこで、改めて俺は驚いた。


「えっと……」 


 観衆がいる。

 観客席に、まばらだけど、人がいるのだ。

 入団テストだというのに、なんだってこんなに人がいるんだ? スカウト……がこんなにいるわけがないし。

 ふと見たスコアボードに、信じられない数字が刻まれている。

 79-0?

 故障かな?

 いや、スコアボートに刻まれている数字を足したら、確かに79点になる。


「テディ!」


 王女様が三塁側ベンチの方に歩きながら、誰かを呼んだ。


「は、はい!」


 ベンチから出てきたのは、女性にしては背の高い人だ。やや吊り目で、赤色の瞳をしている。髪型は、栗毛で肩位の長さ、ゆるい縦巻きロールをしていた。


「あんた、もう出番がないんでしょ。彼の肩を作るのを手伝ってあげて」


「か、かしこまりました!」


「……肩作ったら、交代してもらうからね」


 と、何故か睨まれて、王女様は肩をいからせながら三塁側ベンチの奥へ消えていった。

 一体何なんだ。

 俺は、テディと呼ばれた女性に、事の次第を聞こうと近づいた。


「あの……」

「調子に乗るなよ、貴様!」


 ずびし、と指さすテディさん。


「いや、状況が分からないので、説明してほしいんですけど」


 と俺がめげずに説明を求めると、彼女は顔を赤くさせて怒ってきた。


「ここここの私に、状況を説明しろというのか! お前は!」


 カーーーーーーーーン!

 

 快音が響く。超速の弾丸ライナーが、スタンドに突き刺さった。

 スコアボードに三点が追加されて、82-0。スリーランホームランだったのだ。

 ……えっと、攻撃しているのは、紫色のユニフォーム。つまり、ここはやっぱりラフレッチェということになる。しかし、やはり状況がよくわからない。


「~~~っっっ」


 そのホームランを見て、何故か苦悶の表情を浮かべるテディさん。無言で背中を向けて、俺と距離を取った後、ボールを投げた。ぽーんとゆるやかに山を描いたボールを、俺は慌ててグラブに収める。


「肩を作るんだろう! 早くしろ!」

「……??? いや、あの、ちょっと」

「うるさいぞ! 貴様に疑問をはさむ余地などあると思うな!」


 そのボールをグラブでキャッチする。まあ、確かに、四の五のは言ってられないけれども。

 ……彼女からは、何か情報を教えてくれないようだ。

 ともかく、肩を作るのは、その通りだ。キャッチボールを開始した。



 思えば、色々な矛盾点があった。

 王女が直接迎えに来るというのもそうだし、青色のユニフォームもそうだ。テストなのに観客がいる球場。妙にいらだっている王女様。

 気付かねばならなかったのだ。俺は。

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